小説2

□ナイショのハナシ
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「ちょっと水戸部君、今、いいかな――?」

その日は部活がない日だった。
というのも、来週に期末テストがあるから、テスト週間ということで部活禁止令が発動しているのだ。
もう帰ろう・・・
そう思って帰ろうとしたら、教室の外で待っていたのは部活の監督、こと“カントク”だった。
どうしたのだろう?首を傾げてしまったが、どうやら自分に用事があるらしい。
了承の意をこめて頷けば、ありがとうと笑顔で言われ、腕を引っ張られた。

「ここじゃなんだから、ちょっと寄り道していかない?」

断る理由もないのでカントクに付いていった。
そういえばカントクとこうして2人で歩く事なんて初めてかもしれない。
すぐに日向と木吉の顔が浮かんだ。
あの2人、カントクを挟むようにしていつも一緒にいるんだよな。
まあ、その理由もわかるのだけれど。
片方――鉄心こと木吉は単に楽しいからだろうな男女の機微とか絶対わかっていないはずだ。
もう片方――キャプテンこと日向はカントクに対して仲間以上の想いを抱いていると思う。
そして真ん中で笑うのはカントク。仲良し3人組の完成だ。






























「あのね、水戸部君。驚かないで聞いてほしいの」

連れてこられたのは学校から少し離れた喫茶店。
もちろんこの辺を通学路にしている人はいるだろう。
あれ、でも確かこの辺にバスケ部の人たちは住んでいないはずだ。
もしかして、バスケ部の人には聞かれたくない話なんだろうか。

「みんなには内緒なんだけど、」

この場合の“みんな”とは、おそらくバスケ部メンバーの事だろう。
ん、と頷けば、カントクはほっと安心したように微笑んだ。

「実は―――」

何だろうか。
しかしカントクはそれ以上言うのを躊躇っている様子だった。
しかも心なしか顔が赤い。
もしかしてこれは・・・

「好きな人ができた、の・・・」

まず、なんて言ったらいいか分からなかった。
恋愛よりバスケに生きていたカントクから、まさか恋愛相談とは。
驚いていたのがわかったのだろう、カントクは少し照れくさそうにしながらも柄じゃないわよね・・・と寂しそうに呟く。

「え・・・違う・・・?」

そう、確かに驚いたけど、カントクも立派な女の子だ。
恋をして何が悪いんだ。
そう意を込めて頷けば、また照れくさそうに笑った。
やっぱりカントクは笑ったほうが可愛い。

「あの、ね・・・」

それで・・・とポツリポツリと話し始めた。
彼の性格、言動、バスケへの想い、カントクとの関係・・・
どれも同じバスケ部だったら知り得ている情報だった。
だけどカントクは初めて話すかのようにゆっくりと、言葉を紡ぐ。
照れくさいのだろう、彼との関係、そして好きになった所を話す時はどうも歯切れが悪かった。

いいなあ、と思った。
部活でも、それ以外でも想われているなんて。
今頃勉強せず筋トレとかしてそーだよね、カントクの想い人は。
それほどのバスケ馬鹿に、いや、バスケ馬鹿だからこそ惹かれたのであろう。
この2人には絶対に幸せになってほしい。

「でもありがと、少しスッキリしたわ」

ただ話を聞き、時折注文していたコーヒーを飲むだけだった。
しかしカントクは満足そうに微笑むと、帰りましょうかと言った。

「今日はありがと」

いえいえ、こちらこそ。
やっぱりカントクは笑顔が一番だ。
自分がやれることは少ないけれど、今はやれる事を精一杯やるだけだ。
とりあえず期末テスト後の補習には捕まらないようにしないと。
そういえばカントクの想い人の成績はどうだったかな・・・?
どうせ歴史ばっかりやってるんだろうな・・・と苦笑いを浮かべながら、カントクと並んで帰るのだった。






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