小説2

□エール
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相田リコ、17歳。
誠凛高校の生徒会副会長、そして男子バスケ部女監督、通称“カントク”。
男バスからはほとんどがカントク呼びだ。

「リコ」
「なあに?鉄平」

この男―木吉鉄平を除いて。

ここのところなんだけど。

木吉はそう言ってカントクの目線に合わせるように前かがみになっている。
近い。
けれど2人にはそんな気は全く無いんだろうなあ。
俺たちにとってはそれはもう当たり前、日常茶飯事な光景であった。

「木吉・・・死ね」

いい加減に慣れてくれよ、日向。
そして人一人殺せそうな視線を送るな、でも気づかれてないから。
俺とかコガとか、周りしか気づいてないから。
あ、火神は気づいてないかも。












「はぁー・・・・・」

なんて重たいため息だ。
やっと地獄の部活が終わって解放されたのに、隣で暗くならないでほしい、本当に。
まあ、こいつが考えている事は大体は分かっている。

つうかいい加減くっつけよ。

これ、声を大にして言いたい、いやマジで。
しかしこれは当人たちの問題でもあるし、俺たちが口出していいわけじゃない。
中学から見ていてなんともどかしい事か。
お互い“監督”と“プレイヤー”の関係に甘んじている節がある。
こいつらの事だから、付き合いだしたからってバスケを疎かにするっていうわけでもないんだろうけど。
要は2人共怖がりなのだ。
別にこの関係が壊れるわけないのに。
というか明らかに両想いな2人だ。
壊れるわけがない。
知らぬは本人たち、だけ。
あ、一部知らない奴がいた。
ああ、なんてもどかしい。

「つうかさ、お前なんで“カントク”呼びなの?」

未だ深みにハマっている日向にちょっとしたアドバイス。
俺的には、名前呼びでも少しは変わると思うのだけれど。

「中学の時は名前呼びだったじゃん」
「今更呼べるか」
「あー・・・変にグレて苗字呼びになったんだっけ」
「変にグレてとか言うな!」

いや、あれはおかしな方向にいってたと思う。
バスケしたくないからってアレはないわ。
まあ、気持ちは分からなくはないが。
よく木吉は諦めなかったよ。
あいつのそーいうところは尊敬するね。

「まぁ試しに呼んでみればいいじゃん」

くっと親指をたてれば、すさまじい形相で睨まれた。
おー怖い怖い。
しかしそれ以上日向が口を開く事は無かった。
名前呼びは考えていたのだろう、おそらく図星だ。
こいつ、図星つかれたら押し黙るクセあるもんな。

「じゃ、期待してますよひゅーがくん?」

わざとらしく背中を叩けば、またもや睨まれた。
























「あ、あのさっ・・・」

誰も居ない放課後の教室、夕日に染まり、優しく2人を染める。
確かに期待してるって言ったけど、これはかなりベタなんじゃないか!?
視線の先には、顔を真っ赤にしたキャプテン(あれは夕日だけじゃないはず)と、何故連れて来られたのか分からないといった様子のカントクだった。
もちろん俺は教室後ろの入口に隠れて待機だ。
これで見つかったら、もう、色々台無しだ。
つうかいっそ告っちまえよ!!

「どしたの?日向君」
「り・・・・・り・・・・」
「り?」

よし、あと一文字!あと“コ”って言え!
続けて言えなくても、もう“コ”って言えただけで許すから!

「り、リコ・・・」


言ったああああああ!!!
しかも続けてリコって言った!
さあこれでカントクの反応は・・・

「ん?で、どうしたの?」


完全スルーかよおおおお!!

カントクも相当鈍感だと思っていたが、これは重症だ。
あーあ、日向がみていられないよ。

「にしても珍しいね、リコっって呼ぶの」
「あ、あぁ・・・」
「あれ!?どしたの日向君!?」

落ち込んでいるのはあなたのせいですよ。
カントクは落ち込み重たいため息をつく日向の背中をさするが、それがまた悲しいというかなんというか。
俺はこっそりそこを後にした。
またあのため息地獄なんだろうな、とため息をつきながら。


































































びっくりしたぁ・・・・
いきなり名前で呼ぶんだもの・・・
でも、まだ気づいてやらないわ
いつか名前呼びが定着するまでは、ね






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