小説2

□そこからは、
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「あ、リコさん」
「あら」

久しぶりのOFFの日だった。
また明日からがんばろう、そのためにはまたサプリメントを買いにいかなくちゃ。
ふふふ、はたから見れば不審者と間違われるような声を発しながら、誠凛バスケ部カントク、こと相田リコは
お気に入りの買い物袋を肩にかけて出かけようとした、その時だった。

「どうもこんにちはー」

綺麗な桃の髪をなびかせた、桐皇学園バスケ部マネージャーがにこやかな笑みを浮かべていた。

「どうしたの?こんなところで」
「ちょっと聞きたい事がありまして」
「聞きたい事?」

バスケの事かしら?
けど、今日はOFFだから皆居ないのに。

…バスケ馬鹿な連中だから、どうせストバスとか行ってそうだけど。

「あの・・・」
「?」
「どうしたらテツ君と付き合えるでしょうか!!?」
「・・・はい?」

い、いきなりどうしたのかしら・・・
確かにこの子は黒子君の事が好きで、人目を憚らず猛アタックしているが。

「私、知っているんですよ」
「な、何を・・・」

にっこり。
音にすればそんな音。
しかし何故か寒気がした。

「リコさんと日向さんが付き合っていr」
「ちょっとちょっとストーップ!!」

な、何でこの子が知ってるの!!?
部員すら知らない事なのに!!
というかこれパパに聞かれたら殺されちゃう!!・・・日向君が!

「と、とりあえず場所をうつしましょうか」
「じゃあいいカフェ知っているんです」

行きましょうか、とにっこり笑顔の桃井さんを連れて、彼女お勧めのカフェに行くことになった。
サプリメントは、今日は無理ね・・・
というかなんで知っているのかも知りたいし。


























桃井さんに連れてこられたカフェは、広くもなく狭くもなく、ちょうど良い広さのお洒落なカフェだった。
数組のお客さんがいるから、声が響かず、目立たずに済むだろう。
それよりも。

「それで?どーして知ってるの!?」
「あー、日向さんと、でしょ?見てればわかりますよ」

そ、そんなっ・・・!!
誰にもばれてないって自負していたのに・・・!
くっ・・・余裕そうにミルク混ぜてんじゃないわよ。

「ま、知ってるのは私だけと思いますけど」
「・・・そ、そう・・・」

良かった、とほっと胸をなでおろす。

「なんで知ってると思います?」
「・・・なんでかしら」
「私の武器は情報収集ですよ?」
「し、知ってるわよ」

それで苦しめられたんだから。

「情報を集める時、観察しなければ始まらないんです」
「で?」
「リコさん・・










胸が大きくなりましたね?」






・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・




「はああああああああ!!!???」

た、確かに今のサイズはきついけど・・ってそういうことじゃなくて!

「どうしてソレを!?」
「だから観察したんですって」


か、観察でそこまでわかるの・・・!?というか、

「な、何で日向君と付き合ってるって話に・・・」
「見てて甘い雰囲気になっていたのに気づいて。で、その時期くらいからリコさんの胸も大きく・・・」
「ほぎゃああああ!!」

思わず胸元隠して勢いよく立ち上がってしまった。
やばい、めちゃくちゃ顔が熱い。
もちろん店内の冷たい視線も感じたが、今はそれどころじゃない。

「ここでは、“どうやって大きくなったか”というのは触れないでおきます」

既に大ダメージ受けてますし、とにっこり笑顔のこいつが憎いっ・・・!
キッと睨むもどこ吹く風。
どこまで余裕があるのだ、本当に。

リコっ・・・
じゅんぺ、いっ・・・

彼の、真剣な眼差しと“包まれる”大きくて温かな手が頭の中でフラッシュバックする。
って、何律儀に“大きくなる”方法思い出してんのよわたし!!


「で、どうやって日向さんをオトしたんですか??」
「そ、それは・・・」

といっても、日向君とは付き合いも長い。
好きです、私も、なんて甘い雰囲気になるわけもなく。
気づけば隣にいて、甘え、甘えられる関係になっていた。
しかしそれがあまりにも自然で、特に意識したわけでもなく。
どうやって、と言われても・・・というのが正直なところである。
ぐ、と近づけられた桃の瞳にたじろいでいれば、


「あ、カントクに桃井さん。こんにちは」

「黒子君!?」
「テツ君!!?」

白のパーカーに黒のジーンズという、シンプルすぎる格好の“彼”が桃井の後ろに立っていたではないか。

「珍しいですね、2人が一緒なんて」
「て、テツ君こそなんで・・・」
「今日はバッシュを買いにきたんですけど、そこを通りかかったら2人が見えたので」

彼らは普通に会話しているけれど、相変わらずのいきなりの登場でこっちは心臓がバクバクしている。
同じ部活メンバーとはいえ、どうしても慣れないものである。

「カントク?」
「っ、あ、ごめん。どうしたの?」

気づけばシンプルな彼・・・黒子君は心配そうにこっちをみていた。

「あ、いえ・・・」

そういえば、と。
桃井は黒子君の事が好きだ。現に今も桃井は穴が開くんじゃないかってくらい黒子君をみてる。
・・・黒子君は気づいてなさそうだけど。

「あー・・・ごめん、私用事があったわ」
「え?」

ここは一肌ぬごうじゃないの。

「じゃあお先に失礼するわね」

邪魔者は退散しなくちゃね。
とりあえず紅茶代は出して、私は店は出た。

出た途端、無意識にため息をついた。
ふう、何とか逃げれた・・・そう思ったのだ。さっきのは建前。
黒子君をダシにしたのは少し心苦しいが、まさしく恋する乙女、な瞳にはどうも苦手であったのだ。
というか、自分だってよくわからないのに、他人に答えなんて言えないわよ。
とりあえずは良かった・・・と一息ついたら。

「カントク?」
「っ!!?」
「?」

まさに今話題のあの人ではないか。

「何そんな驚いてんだよ」
「い、いやっ・・・」

だってさっきまで貴方の事を話してたんだものしかもあっち系な話で。
やばい、意識してる顔があつい。
というか思い出すな思い出すな中心が痺れる低音ボイスとか。

「カントク顔赤いぞ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫!!大丈夫だから!!!」

自分でも大げさなくらいの反応に、案の定眉をひそめる日向君。
でもこんなの言えるわけないじゃない!
こんな日が高いうちにそんな!!

しかし日向君はそんな私をよそにキョロキョロと周りをみてよしと頷くと、スルリと指を絡めてきた。

「いいだろ?」

にかっと爽やかな笑みに改めて惚れそうになる。
日向君の笑顔なんて、私が一番見ている筈なのに。
だから許してしまいそうになる、が。
今は。

「誰か見てるからダメっ・・・」

バッと振りほどけば、日向君はふてくされたようにそっぽ向いてしまった。
しかしどうしても恥ずかしいのだ。
だからバスケ部にだって言えてないのだ。
日向君は気にするな、なんて言っているが。
それでもダメ。だって恥ずかしい。

「そんなに俺と付き合ってるのが恥ずかしいのか?」
「ちがっ・・・」

そういうことではない。だけど拗ねた日向君はそういう解釈で言ってくる。
もちろん日向君と付き合うのが恥ずかしい、とかじゃなくて。

「見られるのが恥ずかしいの・・・」

日向君は好きよ・・・そう言えば、満足そうに笑みを深める日向君。
日向君は私にそれを言わせたいがためにわざとしてくるのだ。

「あ、そ」

じゃあ帰るか。

そう言って腕を引かれる。
鼻歌なんて歌って行く場所なんて決まっている。
またこのパターン・・・

「見られなければいいんだもんな?」


にっこり、桃井の笑顔とはまた違った笑み。
背中がゾクリとした、が、抵抗出来なかった。

そして、見えるは日向君の家。

「親はいねぇから」

というか夕方まで共働きじゃない。
そんな言葉をのみこみ、引かれるまま日向君の家に入っていくのだった。




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