小説2

□小さな小さな、だけど大きな一歩
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「何をみている?」

気が付けば、訝しげに見る翡翠の瞳。
それをみて俺は一つため息をついた。

「貴様っ・・・」
「あーごめん、別にヒルダの事じゃねえから」
「・・・」

未だいぶかしげな様子なヒルダだった。
そりゃそうだ。
理由もなくため息をつかれちゃ、誰だっていい気分はしない。
が、心の中でひっそり思う。

どうしてヒルダなんかね、と。

ヒルダの腕の中にいたベル坊を自分の肩にのせて歩を進める。
名残惜しそうにしていたヒルダだったが、すぐさま表情を笑顔にかけ、肩にのるベル坊へと微笑みかける。

そう、こいつのすべては“ベル坊”だ。

それは重々承知していたし、理解もしていた。
だけど、抑えられなかったんだ。



『お前が好きだ、ヒルダ』


そう言った時のヒルダの顔で答えは分かった。
そのあと小さく頷いたヒルダに、どうしようもない歓喜と、愛しさが溢れた。

のに、


まあ、こいつに要求するのは間違ってるよなー・・・

ベル坊至上主義のこいつに求めるのは問題があったか。
けど男として、うーん・・・

思い出すのは、さっきすれ違った一組の男女。
男の腕に女は寄り添い、歩いていた。
さも幸せです、と言わんばかりに。
歳も俺たちと近い。
なのになんだこの差は。

「おい、ドブ男」

いつの間にか俺は立ち止まっていたのだろう。
いつも俺の前に出ることはないのに(ベル坊がいるため)、気づけばヒルダは俺の斜め前にいた。

「さっきからどうしたのだ」
「・・・」

あなたのせいですよ、ヒルダさん。

と言いたかった。
が、色々な意味で鈍感なこいつに、そう言ったってわかりはしないだろう。
ダゥ?と首を傾げるベル坊の頭を撫で、無言で足を進めた。
それに倣うようにヒルダも歩く。

まあ、こいつとはこういうものだよな。

何を焦ってたんだ俺は。
というか、こういう思考って俺の柄じゃねぇし。
・・・平和ボケか?

と、ふと感じた手の温もり。

ドキン、と心臓が跳ねた。
自分とは違う温もり。
自分とは違う色をした指先。
それは俺とは違うものだった。

「ヒル、ダ・・・」

ゆっくりと手元から辿れば、顔を真っ赤にしたヒルダだった。

「寒いから、な」

プイっと視線を逸らされた。
が、手は繋がれたまま。

「・・・そうだな」

細くて白い指と絡めれば、一層ヒルダの耳は赤くなった。


その手は、家につくまで離れなかった。



































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