小説2

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「うまっ」

ホクホク湯気が立っているコロッケを持って笑顔の男、男鹿辰巳が声をあげた。
肩に乗る赤ん坊はそれを物欲しそうに手を伸ばしている事に気付いた男は、
慣れた手つきでコロッケを小さく割って口元に運べば、大きな口を開けてパクついた。
モグモグと、嬉しそうに頬張る赤ん坊。
一見すると奇妙な光景だが、それが普通になりつつある当人たちにとっては気にする事では無い。

「坊ちゃま、衣が口元に・・・」

慈愛の微笑みを浮かべて赤ん坊の口元に白いハンカチを当てているのは金髪侍女悪魔・ヒルデガルダだ。
彼女も慣れた手つきで優しくふき取ると、赤ん坊は満足したように「ダブッ」と声を上げた。

「ありがとうございます、坊ちゃまっ・・・!!」

一言、しかも3文字なのに感動するヒルダをよそに、男鹿は新しいコロッケを取り出した。
新しいコロッケにさらに目を輝かせたベル坊の頭を撫で、小さく分けようとした男鹿は一旦動きを止めた。
 
「ニョ?」

不思議そうにのぞき込むベル坊にちょっと待ってろ、と言って、男鹿はヒルダのほうを向いた。

「・・・ほら」
「何だ?」

なぜ坊ちゃまにコロッケをやらぬのか?
訝し気に見るヒルダの目の前には、さっき男鹿が新しく取り出したコロッケ。
まだ湯気が立っている。

「食べろよ」
「は?」
「ほら、美味ぇぞ」

ほらほら、とヒルダのほうにコロッケを向けるが、ヒルダはそれを受取ろうとはしない。
まあ、予想はしてたが、と男鹿はため息をついた。

「ベル坊も食えって言ってるし」
「ですが私は・・・」
「アイダブッ!ダッ!」

男鹿の手の中のコロッケを指さし、ヒルダのほうを指さした。
確かに食べろ、といっていた。

「ほらな」
「そこまで言うのなら・・・」

渋々、ヒルダは手を伸ばした。

「・・・、美味しい」
「だろ?」

やっぱりフジノの拳骨コロッケだよな、と男鹿は笑い、ヒルダも微笑んだ。

「ニャブッ?ダッ!」

どことなく流れる、2人の穏やかな雰囲気に驚くベル坊。
だが、2人の微かな、朱の頬に、赤ん坊は満足そうに声をあげるのだった。









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