小説2

□惚れたら負け!
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「ねえ、カラスマ」
「なんだ」

無機質なパソコンのキーをうつ音が響く。
このE組用の職員室でそんなことをするのは“体育教師”の烏間と“英語教師”のイリーナだけだ。
しかし今はイリーナの目の前には閉じられたパソコン。
つまりキーを押す音を出すのは烏間ただ一人だけ。
イリーナが話しかけるも、烏間のキーをうつ音は止まなかった。
それにプクリと頬を膨らませたイリーナは、ジトリと烏間を睨んだ。
もちろんそれに怯む烏間ではないのだが。

「…あのさ、」
「だから何だ」

それでも烏間の指は止まらない。
しかも一度も視線をよこさず、目線は画面にくぎ付けだ。

こーして見るとかっこいいのよね・・・

やや鋭い眼光だが、一点を集中して仕事をする烏間の横顔はかっこいいの一言だ。
しかしそれは今は置いておこう。
だって話しかけてるのに仕事優先だなんて。

「あんた、私と仕事はどっちが大事なの?」

ああ、嫌な女だと思う。
言われたら大半の男は呆れ、そして心が離れていく。
(言っとくけどこれは一般論。私の場合、もちろん私を選んでくれる男たちはたくさん居た。
でも。)
そんなことは分かっているのに、やっぱり聞きたくなってしまった。
だって、私と烏間は。

「お前。」

先日から付き合うことになったのだから。

「じゃあもっと構ってよ!!」
「今は仕事中だろうが!」

といっても、私が粘り粘っての結果なのだ。
もしかしたらこれは同情なのかって不安に思ってしまう。
そういえば、あの時カラスマは呆れてため息ついてたっけ。

「…………」

ほら、やっぱり。
こっちが話さなければ、あっちも話さない。
またパソコンのキーの音が響いていた。

カタンッ!!
一際大きく響いたかとおもいきや、今までパソコン画面をみていたカラスマの
瞳は、いきなり私のほうへと向くのだった。

「…今終わった」
「は?」

キリ、と見つめられた瞳にドキリとするも、話の脈絡がなさすぎていまいち要領を得ない。
しかしカラスマはパソコンを閉じ、そばにあった荷物へと手を伸ばす。

「帰るぞ」
「え?あ、うん!」

ジャケットを羽織って歩こうとするカラスマの後をついていくように、急いで足を進めるのだった。






































「…」
「……」

う、何この沈黙。
さっきまではカラスマは仕事をしていたから沈黙も仕方ない所があった。
しかし今はお互い黙って歩いているだけ。
さすがに気まずい。
しかも私のななめ前を歩くものだから、カラスマの表情は分からなかった。

「イリーナ」
「は、な、何・・・?」

いきなり呼ばれたかと思えば、カラスマはクルリと振り向き、立ち止まった。
反射的に私も止まってしまえば、カラスマはふ、と口元を緩めた。

「お前も一般的な女の思考があるんだな」

なんとなくカチンときた。

「まあ、その・・・仕事一辺倒だったことは謝る」
「・・・!!」

思いがけない言葉に思わずカラスマを凝視してしまった。

「しかし、仕事が早く終わればそれだけ長く一緒に居れるだろう?」
「・・・!!?」

なっ・・・
なんって殺し文句を・・・!!

「・・・バカラスマ」
「褒め言葉として受け取っておこう」

悔しい!!
なんでこんなにスマートなのよこいつは!!


顔が熱くなる音が聞こえた気がした。



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