小説2

□終わりを告げる微笑み
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誰も居ない教室で。
目の前には愛しの彼(おそらく初恋)と赤ん坊。
3人で机を囲み、“ある”話をしていた。

「で、だ。最近の“アイツ”はいつにも増して凶暴なんだよ」
「凶暴って・・・」

下敷きをパタパタさせれば、彼の黒髪が揺れた。
頭の上の赤ん坊は涼しいのか歓声を上げた。
しかし男・・・男鹿は「あちぃな」なんて言いながらも話を続けた。
首筋に流れる汗が妙に色っぽい。

「邦枝?」
「え!?あ、ごめんなさい!」

貴方の首筋に見とれてました、なんて言えずに誤魔化せば、
さして気にならないのか男鹿は話を続けた。

「“アイツ”と居たら、いくつ命があっても足りねえよ」
「ふ、ふーん・・・」
「最近は俺のやることにいちいち突っかかってくるんだぜ」

やってられねえよ、と吐き捨てる男鹿に、何故かチクリと心が痛んだ。

“彼女”の性格は知っている。
彼女・・・ヒルダさんは興味がない人にはとことんクールで、自ら接しようとはしないのだ。
・・・つまりヒルダさんにとって男鹿は、“そういう”存在なのである。

「けどな、」
「?」
「あいつの小言が無いのもいまいち物足りない気がするんだよな」

・・・何よそれ。
それじゃあ私はとんだピエロじゃない。
・・・だから最近、ヒルダさんの話ばかりなのね。
男鹿はヒルダさんの事を・・・

瞬間、風が吹いた。

「ここに居たのか」
「ヒルダ!」

外を見れば、魔界の鳥?(アクババ、というらしい)に乗ったヒルダさんが私たちを見下ろしていた。

「おまっ・・・!アクババに乗ってくんなって言っただろ!」
「貴様が遅かったから迎えにきたのだ。
・・・帰るぞ。」
「・・・!!」

ヒルダさんが、微笑んだ。

「じゃあな邦枝」
「え、ええ・・・じゃあ明日」

ヒルダさんの表情なんてお構いなしにアクババに乗り込み、男鹿は手を振った。
男鹿の背中にいるベルちゃんも一緒になって手を振っていた。
そしてアクババは高度を上げて飛んでいく。
その後ろ姿が見えなくなるまで私は立ち尽くしていた。
そして思い出されるのはヒルダさんの微笑み。

慈しむような、母の顔。
愛しむような、女の顔。

前者はベルちゃん、後者は・・・男鹿に向けられていた。

「・・・馬鹿みたい」

放課後、誰もいない教室で男鹿と話すことは日課になりつつあった。
他愛ない話でも緊張したが、とても幸せな時間だった。
だけどもう、それも終わり。

あの微笑みに、負けたから。

「明日から、どうしよう・・・」

とりあえず祝福、すべきなのかしら・・・




その問いに答えるものは誰も居なかった。



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