小説2

□日常から始まる
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「「あ・・・」」


がちゃりと扉を開ければ、同じく扉をあけてこちらを見ている隣人と目があった。
翡翠の瞳と合い、少し頬が熱くなった気がした。

「お、おはよう・・・」
「あ、ああ・・・」

ミンミンと蝉がうるさかった。
しかし、それ以上に胸がうるさかった。

「・・・行くか」

がしゃり、と大きな音をたてるものを手に持ち・・・
隣人、ヒルダと一緒に階段を降りた。
どんな理由だろうと、ヒルダと少しの時を共有できるのが嬉しかった。
たとえ・・・

左手にごみ袋を持っていようとも。























「ほら、入れろよ」
「あ、すまない・・・」

ゴミ置き場のボックスのふたを開けてやれば、よっこいしょとゴミ袋を持ち上げて入れた。
依然ふたが錆ついててしかも重たいから開けにくいっていってたから、今はこうして開けてあげている。
前に古市が『少しの気配りに心惹かれるもんなんだよ!』と言っていた・・・気がする。
こ、これでいいんだろうか?
けど、ヒルダのためにちょっとでもいいところを見てほしい、そう思うのは普通の事なんじゃねえの?

「じゃ、帰るか」

住んでるアパートの、集合ゴミ置き場。
もちろん距離的には遠くない、むしろ近い。
しかし、少しの距離でも一緒に居たい・・・
特にこんな休日だとそう思うようになった。


「最近マジで暑いよな」
「そうだな」

まあ、会話の内容といったら、そんな何気ない事ばかり。
だからすぐにネタが切れて気まずくなってしまう。
あれ、さっき“距離的にて遠くない”っていったような・・・

「じゃあ、な」

でも、なんだかんだでもう部屋の前。
あれ、何を話したっけ?
考えるも、まったく思い出せない。

「・・・」
「・・・どうした?」
「あ、いや・・・」

答えない俺に不審に思ったのだろう、小首を傾げてみつめる翡翠の瞳と目があった。
うわ、こいつの目めちゃくちゃ綺麗だな・・・

って、何黙ってんだよ俺!

「・・・なあ、」
「は、な、なんだ!?」

声が上ずった。何これめちゃくちゃダサい。
ヒルダはそんな俺を見て、クスリと小さく笑った。
その笑みは綺麗で、思わずみとれた。

「今日のお昼・・・時間はあるか?」
「昼・・・?」
「最近“ひやしちゅうか”というものにハマっておってな。その、自分で食べるのもいいんだが・・・」
「そ、それってつまり・・・」

コクン、とヒルダがうなずいた。

心なしか顔が赤くなっている気がする。
・・・いやいやいや、ヒルダはまだ明確な言葉を言っていない。
い、一応確認してだな・・・

「ひ、昼ご飯を作ってくれるって事、か・・・?」
「・・・そのつもりだが。」

よっしゃっっっ!!!

心の中でガッツポーズをした。やべ、涙出そう。

「じゃああとで来てくれ」

そう言ってヒルダは微笑み、自分の部屋へと消えていくのだった―――――



「・・・・マジか」

やばい、めちゃくちゃ嬉しい。
うわ、何着ていこう。
つうか俺汗くさいよな・・・
一回シャワー浴びてから行くか。
・・・ヒルダの部屋とか初めてで緊張してきた。
というか、俺大丈夫か・・・?
やべ、心臓うるさい。

部屋に戻り鏡を見てみれば、盛大ににやついている自分と目があうのだった――――














































(おまけ)
「・・・・はぁ、」

扉に背をあずけ、息を吐いた。

誘えた。男鹿を。
嬉しい、すごく。

もちろんとても緊張はしたが。
でもちゃんと言えた。しかも断れずにすんだ。

「・・・片づけしなきゃな」

だって初めて男鹿が私の部屋にくるのだ。

「・・・よしっ」

とりあえず窓をあけて、手を動かすのだった。






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