特別な品
□日常からの脱出
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「はあ!?てめえは本当むかつくな!!」
「貴様から気に入られる必要はない!!」
男鹿とヒルダの口喧嘩。
それはもう日常となりつつあって、周りも「またか・・・」と思っていた。
しかし、
「なんでてめえだったんだよ」
「何?」
「ベル坊の侍女悪魔が邦枝だったら良かったのにな!!」
「!!」
言ってから男鹿はしまった、と顔をしかめた。
邦枝の名前が出てきたのは丁度視界に入ってきたからで特に意味は無い。
なのにヒルダの瞳は揺れ、ついにはポタリと床を濡らした。
「っ・・・ならば好きにするがよい!」
「ちょっ、ヒルっ・・・!!」
そしてヒルダは呼び止める暇もなく、早足に教室を出ていくのだった。
「うわー・・・男鹿っち最低ッス」
「・・・(コクコク)」
「男鹿ちゃん、それはあんまりだよ」
「「男鹿ヨメ泣かしたうわ〜・・・グハッ!?」」
今まで遠巻きに見ていた石矢魔メンバー・・・神埼と姫川は普段発揮しないコンビネーション(?)を発揮し男鹿に殴られたのだが、彼らから冷たい視線を浴びせられて思わず一歩下がった。
「くっ・・・」
自分でもまずい事を言ったと思う。
むしろヒルダにはその、感謝、というかヒルダじゃなきゃダメっていうか・・・
あーくそっ、素直になれねえ自分が憎らしい。
「早く追いかけなさいよ!」
「邦枝・・・俺、行ってくる!!」
邦枝に言われて気づいた。そんなことしている場合じゃないって。
そして俺はヒルダを追いかけるのだった・・・
「ヒルダちゃんなら部屋に居るわよ」
「サンキュー姉貴」
学校は出たものの、ヒルダが行きそうな所なんて検討もつかないから、とりあえず走って家に帰った。
入ると丁度姉貴と出くわし聞けば、見事にビンゴだった。
「何かあった?」
「何も!」
姉貴への返事もそこそこに、俺は2階へと急いだ。
・・・なんだか嫌な予感がする。
「ヒルダ!!」
「・・・なんだ、騒々しい」
部屋に入ると、冷たい目に射抜かれてあもわず後ずさる。
しかしヒルダの手元をみてカッと頭に血がのぼった。
「お前何してんだ!」
「・・・邦枝がいいのだろう?」
「まだそんな事言って・・・」
ヒルダの左手首を掴んで止めさせる。
ヒルダは手を休め、顔を上げた。視線が絡む。
「離せ」
「・・・すまねえ」
「・・・」
今度はすんなり謝罪の言葉がでてきた。
しかし目の前で荷造りされてちゃ、素直にもなるわな。
「だから、まだ一緒に居てくれよ」
侍女悪魔として、と付け加えた。
本当はまだ言いたいことがあったが言えなかった。
・・・この言葉はまた今度。
「・・・いい、のか?」
ヒルダの瞳が不安そうに揺れた。
こんな表情、させたくねえのに。
そう思ったら、ヒルダの腕を引いて抱きしめていた。
「・・・いいに決まっているだろ」
「そう、か」
そっと背中にヒルダの手がまわされた。
なんだかそれだけで安心できるから不思議である。
その後心配して見に来た姉貴に発見されてからかわれるのは、また別の話。