特別な品

□ぬくもり求めて
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※wj7〜8号の話。

「あっ、おかえりなさい、たつみさん!」
「……ただいま」


結局、家に戻ってきてしまった。
外に逃げて、がむしゃらに走った。もちろんそれでいい考えが浮かぶはずもなく。
その間に、唯一の頼りであったベル坊は寝てしまうし…はぁ、どうすっかな…
せめてヒルダが寝てますよーに、と願ったのにこの女は…


「先に寝てりゃよかったのに」
「たつみさんとベルちゃんより先に寝るなんて…」


寒かったと思いましたし、と手に持ってたタオルケットを肩に掛けられ微笑まれた。
…不覚にも、ときめいた。


「…もう寝るか」


考えるのも面倒になってきた。
すすす、と斜め後ろに移動して移動するヒルダに戸惑いつつ、自分の部屋へと戻った。

……はいいのだが。


「あの、たつみさん…」
「ん?」
「一緒に寝てもいいですか…?」
「…」


あぁ、そうだった。
こいつは、“夫婦は一緒に寝る”もんだと思ってたんだった。


「あ、やっぱりダメ、ですよね…」


俺が何も言葉を発さないものだから不安に思ったのだろう。
困ったように笑い、部屋を出ていこうとした。


「…え」
「やっぱりいい」


すれ違った瞬間、ヒルダが悲しそうに目を伏せた。
そして思わず腕を掴んでいた。


「あの、たつみさん…?」


これってつまり…と言うヒルダに俺は冷や汗が流れた。咄嗟とはいえ、俺は何をしてるんだ。
が、掴んでしまったのなら仕方ない。


「…寝るか」
「…!はい!!」


…ああもう、そんな嬉しそうな顔するなよ。

嫌でも顔が赤くなるのを感じながら、乱暴に布団の中に入るのだった。


「おやすみなさい、ベルちゃん、たつみさん」
「…おやすみ」


また嬉しそうな顔をして、ヒルダの瞼が閉じられる。
そして少ししてヒルダの穏やかな寝息が聞こえた。
男鹿はひとつ肩の荷が下りたことにため息をついた。
しかしまだ、目の前に2つ問題があった。
ひとつは目の前にヒルダが居て、一緒に寝てること。これはもうどうしようもない事だから仕方ない。

そしてもう一つは…
背中が寒い事だった。

俺のベッドは基本1人用だ。
今回はヒルダも一緒に寝てるもんだから、どうしても狭くなるし毛布の一人あたりの面積も狭くなる。
さすがに毛布を引っ張ったら今度はヒルダが寒い思いをする。
さてどーするか…と考えて、ある一つの考えが浮かんだ。

いやしかし…

「…」
「……」
「………寒」


やはりこの寒さは耐えられない。
俺は無防備にも眠るヒルダを抱き寄せるのだった…












『たつみさん…』


実はまだ寝てないヒルダが更に男鹿の事を愛しく思って頬を引き寄せていることを、男鹿は知らない…





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