特別な品
□3つ並んで
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今日の昼過ぎ、ケータイに母からのメールが届いていた。
『帰りに牛乳と卵を買ってきて』
正直めんどくせぇ、と思った。早く帰ってコタツに入って暖まりたい。
メールなんて見てねぇよ、とシラを切って帰っても良かったのに。
しかし、丁度メールを開いた時にヒルダがケータイを覗きこんで「行くぞ」と言ってしまったからスーパーに行く事になってしまった。
基本ベル坊と俺の家族(俺以外の、だが)には従順なのだ。
気付いたら腕を引っ張られ、ズンズンと進んでいた。
「やっと買えた…」
スーパーの入り口で、牛乳と卵が入ったレジ袋を左手に持ち思わず呟いた。
スーパーの中を見ると、未だに人でごった返していた。
おふくろめ…これがあったから…!!
スーパーの入り口のガラスに貼られたチラシにはでかでかと“タイムセール!!”と書かれていた。
…つまり利用された。
ま、いいけどね。買えたし。
よし、帰るか…
「おい」
「ん?」
「いつまで握っておるのだ?」
「へ?…あ」
気付けば、右手でヒルダの左手を握っていた。
おそらく、あの人混みの中ではぐれないよう握っていたのだろう。
会計済ましたあとも人混みだったしな…
多分その時に…って、俺無意識にヒルダに手を伸ばしてたんだな。
…なんか恥ずかしい気がする。
「いい加減離せ」
「あ、あぁ…」
ヒルダが手を引っ込めて、右手の温もりが消えて何故か寂しくなって右手を見つめた。
「ウニョ?…ダ!」
今まで黙って頭の上に乗ってたベル坊が不思議そうに顔を覗きこんだ。
そして何を思ったのか、スススと腕からすべり落ちてベル坊と手を繋ぐ形になった。
「ベル坊?」
「坊っちゃま?」
「ダーダッ!」
俺の手にぶら下がりながら、ベル坊はヒルダに手を伸ばす。
そして近づいたヒルダの左手を握りしめた。
「ウィー!」
ぶらんぶらんベル坊が揺れ、自然と俺たちの腕も揺れる。
そして自然とヒルダと目が合って、なんとなくだが心が暖かくなった。
「……帰るか」
「うむ」
ベル坊と手を離さないように、ヒルダとベル坊が離れないように歩調を合わせた。
家につくまで、3つの影は繋がったままだった。