特別な品

□彼女には勝てません。
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「絶対嫌だ!!」
「何でだよ?」
「どうしても、だ!!」
「ダァ…」


赤子が困ったように2人を見た。
2人…男鹿はヒルダの腕を掴んで左を向いて顔を突き出していて、ヒルダは男鹿から逃れようと腰を引いているという、事情を知らない者から見れば大変奇妙な光景だった。
しかし本人たちは至って真剣。

こうなったのは今から少し時間が遡る…



































「おいクソニート」


その日は何も無い休日で、男鹿家長男の辰巳とその子供(血のつながりは無い)が並んで国民的アニメ“ごはん君”のゲームに熱狂していた。


「あ゛?」
「たまには外で遊ばんか!」


辰巳の嫁(便宜上、そう名乗ってるだけ)であり子供の侍女悪魔であるヒルダが声をあらげた。
寒さもあってか、最近の2人は家に引きこもってゲームばかり、とても自堕落な生活を送っていたからだ。


「だって寒いしよー。お前、ベル坊が風邪引いてもいいの?」
「くっ…」


そう言えばヒルダが反論出来ないのを辰巳は知っていた。
辰巳は心の中で、今日もガッツポーズした、

次の瞬間、地面が揺れた。



「……え?」
「なっ…!!」


辰巳はほっぺを押さえ、ヒルダは口元を隠す。
そしてお互い自分とは違うぬくもりを、辰巳はほっぺに、ヒルダは唇に感じた。


「お前…」
「じ、事故だ!!」
「もう一回して?」



そして冒頭となるのだった。



「何でだよ?」
「あれは事故だ!別にやろうとしてやったわけじゃ…」
「うわ、お前…」
「…!!あ、その、あのな…」


いつもは気丈なヒルダが自分の言葉で狼狽える姿を可愛く思った。
ほっぺにチュー、以上の事もしたことあるのに、一々照れる姿にキュンとした。
まぁ少しいじめすぎたかな、と腕を弛めようとしたら、いきなり腕を引っ張られた。


「……これで満足か」
「……あ、あぁ…」


じゃあ失礼する、と足早に去ったヒルダの後ろ姿を見送って、辰巳は体が急に力が抜けるのを感じた。


「反則だろっ…!」


右頬を押さえ、改めて自分はヒルダに弱いのだと痛感した辰巳だった。







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