特別な品

□キラリと光る、
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「今日は楽しかったな、ベル坊」
「ダー!」


久しぶりに満足した休日だった。
俺は上機嫌なベル坊を頭に乗っけて、鼻歌まで歌って。
隣を歩くヒルダが「音痴だな」なんて言ったが、気にならない。
何故ここまで上機嫌なのかは分からないが、とにかく気分が良かった。

そんな状態のまま帰路につくためにバスに乗った。
満席だったが、余裕で立てる。
ヒルダは俺の左に立ち、ベル坊は俺の背中へ。
夜のためか、窓にうっすら俺たちが並んでいるのが見えた。
…夫婦が並んでいるようで、ちょっとだけ胸が高鳴った。


「男鹿にオガヨメか?」


一瞬、知らない人だと思った。
が、よく見ると…


「姫川…」
「家族でお出掛けか?」


リーゼントを下ろしメガネを外した姫川が、ヒルダの左、つまり俺の左の左に立っていた。


「なんでてめぇがいるんだよ」


さっきまでの気分が台無しだ。姫川は気づかず「偵察だ」なんて言ってるが。


「偵察?」
「親父のグループだからな、たまに偵察…というか監査だな」


そこでバスが急に止まり、思わず身体が前に倒れた。


「すまない」
「いや、それはいいんだが…」


つまりヒルダの体が姫川の体に寄りかかるというわけで。


「……おい」


自然と声が低くなる。
しかもムカつく事に未だこいつらの体は密着していた。


「ヤキモキか?ん?」
「んなワケねーだろ…!」
「ふーん」


ま、いいけどよ…と自然な流れで体を離す姫川を殴りたくなった。
その顔、ムカつく。

ヒルダはヒルダで気づいてないのか、首を傾げていたが。


「…」
「……」
「………」


そしてバスはまた進む。
並び順は姫川、ヒルダ、俺のまま。
さっきまで俺とヒルダを映す窓が、姫川まで加わって恨めしく思った。
しかも、



「ねぇ見て、あの人…」
「超かっこいいね、銀髪の人」


かすかに聞こえたこの会話。


「隣の金髪の人と恋人かなぁ」
「さっき抱き止めてたよ」
「え、本当?めっちゃラブラブだね〜」
「「お似合いのカップルだよね〜」」


もう我慢の限界だった。


「おいヒルダ!」
「む?」
「次で降りるぞ」
「は?」


降りるバス停はまだ先だった。
だが無理矢理にでもこの雰囲気を壊したくて、ヒルダの腕をとって人混みを縫うように進んで入り口近くへ。
姫川のほうを見ればニヤニヤとしてこっちを見てた。
……明日ボコる。

そう決意して、状況を分かってないヒルダの腕を引いて降りるのだった。





















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