特別な品
□永遠の約束を
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よし、これで準備は大丈夫…
父の名がついた町より少し離れた所にある小高い丘の上で、左内ポケットに入った小さな箱をもてあそびながら、赤いバンダナをした剣士は今か今かと待っていた。
もちろん清楚な法術師を。
“絶対失敗すんなよ!”
“噛んじゃダメだからね!”
眼下に広がる町を眺めながら、幼なじみの弓術師と天真爛漫な魔術師の言葉を思い出して苦笑い。
確かに彼女の前では緊張する。しかも今回は…
「クレスさん…?」
「み、ミント!?は、早かったね…!」
振り向けば、今か今かと待っていた女性…ミントが立っていた。
まさかこんなに早く来るとは思わず心拍数が急速に上昇した。
本当は緊張しないために早めに来ていたのに。
「クレスさんこそ、早いですね」
「まぁ、ね」
ミントの微笑みが更に僕の心臓の動きを加速させる。
しかしミントは気づいてないのか、ゆっくりと近づいてくる。
……あ、忘れた。
あまりの緊張に忘れた、本当に。
せっかくチェスターたちと今回の事を練習したのに。
ダメだ、全く思い出せない。
「あの、クレスさん」
「な、なんだい?」
……すっとんきょうな声を出してしまった。
「風が気持ち良いですね」「え?あ、そうだね、うん、気持ち良いね」
「……」
「………」
ダメだ、会話が持たない。
あれ、いつもどんな会話をしていたかな?
なんで日常会話まで忘れてんの僕!?
「クレスさん」
「はいっ!?」
「あまり緊張なさらず…リラックスです」
「え…?」
なんで分かったんだい?
おそらくそんな呆けた顔をしていたのだろう。
ミントは小さく笑い、だって…と続けた。
「一緒に暮らしていれば分かりますよ」
「……」
「クレスさん…私、待ってますから」
「あっ…待って、ミント」
夕食の支度がありますから、と帰ろうとするミントの腕を掴む。
その時、ミントと出会ってから一緒に暮らすまで、今までの事が走馬灯のように駆け巡った。
「ミント…」
いつも慈愛の笑みを浮かべた彼女。
「僕は…」
相手の事を自分の事のように悩み、励ます彼女。
「君と…」
気丈に振る舞い、中々弱みを見せない彼女。
「ずっと一緒に居たい、」
だから…
「結婚してください」
「え、ミント!?」
「あ、嬉しくて、つい…」
不謹慎にも、彼女の涙は綺麗だと思った。
そして僕は、未だポケットに眠る小さな箱を取り出し、蓋を開けた。
「ミント、手を…」
そして彼女の細くと白い指に箱の中にあった…指輪を通した。
「ありがとう、ございます…!」
「こちらこそ、だよ」
やっぱり笑顔が綺麗だ、と今までで一番な笑みを浮かべるミントを引き寄せるのだった。