特別な品

□ゆっくりと、
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「古市!!」


そう呼ばれて振り向けば、ピンク髪の少女……ラミアが腕を組んで見上げていた。
心なしか、ほっぺたが若干赤い気がする。


「古市…た………」
「た?」


そして挙動不審だ。


「ごめん、一回深呼吸させて」
「深呼吸?」
「……ふぅ、……古市、」
「ん?」
「た……」
「た?」


また“た”か、一体何だってんだ?
ラミアは何回か「た…た…」と言うだけで先に進まない。
しかも顔を伏せているから表情が見えない。
だから声をかけようと手をかけようとするとラミアは勢いよく顔を上げたものだから思わず足が一歩下がった。


「…やっぱり無理!!」
「は?」


言いかけて、怒鳴られた。
一体何だというのだ。
しかもラミアは「あんたのせいよ!」なんて言い出す始末。


「いや、何のことだかさっぱり…」
「もういいわよ!じゃあね!!」
「え、ちょっ…」


結局何を言いたかったのかわからずにラミアは走りさってしまった。


「……、ああもう!!」


そして俺はラミアを追いかけるために走り出したのだった。
























やはり男と女の差、ラミアにはすぐ追いついた。
ラミアと目が合って更に逃げようとするから今度は腕を掴まえて。
そしたら観念したように大人しくなった。


「なんで逃げるんだよ?」
「…別に、」
「じゃあなんで…」
「……」
「そんな泣きそうな顔してんだよ…!」


瞳を潤ませて、何かに耐えるように歯をくいしばって。
気にするな、という方が無理な話である。


「アランドロンが…」
「へ?アランドロン?」


いきなりのおっさんの登場ですっとんきょうな声を上げてしまう。
何故ここでおっさんの名が上がるのだ。


「アランドロンは…あんたの名前で呼んでる、でしょ…?」
「……本当にやめてほしいがな」


あぁ、思い出しただけで全身が震える。ついでに寒気も。
出来ればアランドロンの記憶をまるごと消したいところだが、どうにも強烈すぎて消えない。

で、だ。


「それと何の関係が?」


アランドロンが俺の名前を呼び始めたのはそんなに最近の事では無い(なんと嘆かわしい)。
そのことが今回の事とどう関係あるのかがわからなかった。


「私も呼びたかったの…!」
「へ!?」


本日二度目の反応。
いや、これはもしや…


「でも…でも…!!」


……あぁもう可愛すぎるだろ!!
何なのこの可愛い生き物!
名前呼びたくてでも呼べなくて泣きそうになるって!


「ラミア」
「ん?…!?」
「まぁ、ゆっくりでいいから、な?」


引き寄せて、ラミアの頭に手を置いた。
するとラミアの体は一瞬強ばったが、一つため息をついて寄りかかってきた。


「古市」
「ん?」
「…ありがと」
「どういたしまして」


今はまだ、このままで。
ゆっくりと、歩いていけばいいのだから。






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