特別な品
□将来は安泰です。
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1、美咲視点
ん?あれは……
お母さんから頼まれた買い物帰り、見慣れた黒髪と金髪がチラリと見えて思わず足を止めた。
その二人はどっかの学校…おそらく不良学生に囲まれていた。
黒髪だけなら、そのまま無視して帰っていた。
負ける心配はしてないからだ。
しかし金髪…ヒルダちゃんがいたから。
ヒルダちゃんの実力は分からないが、ただ者ではないとは思う。
しかし相手は多い。
何が起こるか分からない。知らず握りこぶしができて…
「全員土下座」
……あら、もう終わったの?
一瞬のうちに地に落ちた連中と、何事も無かったように立っている辰巳とヒルダちゃん。
ま、当然かなぁ、と思ったけど。
じゃあ帰りますかと踵を返そうとしたら、
「………あら」
思わず声が出た。
が、辰巳とヒルダちゃんは聞こえてないだろう。
思いっきり二人の世界に入っているのだから。
「ヒルダが無事で良かった…」
いや、あんたが瞬殺したからね、ヒルダちゃん何もしてないよ。
ま、無事ならいっか。
お互い抱きしめ、最早入り込こめないから今度こそ帰路につくのだった。
2、母視点
「上手に出来たわね」
「ありがとうございます」
母上様のおかげです、と言うのは、息子の嫁…つまり義理の娘であるヒルダちゃん。
金髪美人でメイド服、そしてマカオ出身ってのが驚いたけどとてもいい子だし、私は大好きだった。辰巳には本当に勿体無い。
そんな彼女と現在してるのはお菓子作り。
今日はプリン。もちろんベルちゃんも食べれるように、ね。
出来上がったプリンをみつめて微笑むヒルダちゃんに心が暖かくなるのを感じたが、その後ろに見えた黒い影。
「ん、甘」
「貴様!」
いつの間にスプーンを持っていたのだろうか。
気配を消した辰巳が、ヒルダちゃんの前に並ぶプリンを掬い、躊躇いも無く口のなかへ。
「あぁ…坊ちゃまに一番に召し上がってもらおうと…!!」
「別にいいじゃねぇか、なぁベル坊」
「ダァ!」
「坊ちゃま…!」
そして辰巳は続けてベルちゃんにまで食べさせていた。ベルちゃんの顔も綻び、何とも幸せそう。
「ま、お前も食えよ」
「ん!?……」
「………」
は、初めて見たわ…!!
それは辰巳ちゃんがヒルダちゃんに対して、あの…
「ほい、もう一口あーん」
「ん…」
しかも二口目も自然にしてるし…な、慣れてるのかしら…?
ヒルダちゃんも羞恥心なんて無さそうだし、二人とも慣れた手つきでプリンを食べている姿にただただ驚くのだった。
3、父視点
「おはようございます、父上様」
「おはよう、ヒルダちゃん」
とある晴れた日曜日、カーテンを開けて体を大きくのびをしていたら、今起きたであろうヒルダちゃんが律義にも挨拶をした。
本当出来たお嬢さんだ、辰巳はどこで知り合ったんだ…しかも子供まで作って。
我が子なのに遠い存在にみえた瞬間だった。
「ふあぁ…あれ、なんでヒルダいんの?」
欠伸を隠そうともせずに目をかく息子が起きてきた。おそらくトイレか何かだろう。
「貴様こそ早いな」
「ふと目が醒めてな。で、横みたらてめぇがいねぇし」
「喉が渇いたのだ」
ここでふと、「ん?」と思った。
あれ、今辰巳はなんて言った?
「まぁいいや、ん、ヒルダ」
辰巳はおもむろにソファに座り、ヒルダちゃんを手招きする。
そしてソファに近づいたヒルダちゃんを見上げながら、ソファを叩く。
座れ、ということらしい。
ヒルダちゃんは首を傾げながらも座る。
そして辰巳が消えた。
………もとい、横に倒れた。つまり…
「おやすみ、ヒルダ」
辰巳はヒルダちゃんの太ももに顔を乗せ、寝息を立て始めるのだった―…
………
え、私忘れられてる?
すっかり寝てしまった辰巳の髪を、微笑みながら鋤くヒルダちゃんを見ながら涙を流すのだった。