特別な品
□心配無用でした。
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「ほらベルちゃん、あれも面白そうじゃないかい?」
「よ〜しベルちゃん、おじいちゃんが買ってやるからね」
「ダァーブッ」
最近めっきり寒くなってきたある日、男鹿家は休みを利用して車で数十分のところにあるデパートにきていた。
そして特に目を輝かせたのは男鹿家の当主とその妻だ。
赤ん坊も嬉しそうだ。
「……なんか、めっちゃ盛り上がってねぇか?」
逆に醒めた目で見つめるのは赤ん坊の親“代わり”の辰巳だ。
「いっつもベルちゃんってばあんたとくっついてるんだもの」
たまには家に居ればいいのに、なんて恐ろしいことを言う姉に苦笑いを浮かべた。
そんなことしたら即死である。
「こんな機会もそんなに無いし、今日はお母さんたちに譲りなよ」
「譲りなよって…」
物じゃねえんだから、とつっこむが、両親と、そしてベル坊も喜んでるし、まぁいっかと思うのだった。
「ん、ヒルダは?」
さてベル坊の相手はおふくろたちにでも…と思ってたら、いつの間にか居なくなってた女の存在に気付く。
いつもならベル坊の近くにいる、ヒルダが居ない。
「あれ、居ないわね…あんた探してきなさいよ」
「はぁ?なんで俺があの女を…」
「嫁でしょうが!さっさと探して…」
「ただ今戻りました姉上様」
「「うわっ!!」」
姉が弟に回し蹴りを食らわそうと構えて今にも蹴りを入れようとしていると、いきなり弟の後ろから探していた弟の嫁がニュッと出てきたものだから姉弟ともども驚きを隠せない。
そして嫁は嫁で、なぜこんなにも驚いているのか不思議そうに首を傾げるのだった。
「どうかなさいましたか?」
「いや…それよりもお前、どこ行ってたんだよ?」
「気になるものがあってな…」
「?」
言葉を濁されて疑問を持ちつつも、まるで何も受け付けない雰囲気を漂わせているヒルダに若干のいらだちが募る。
基本、男鹿辰巳は短気なのだ。
「何隠してんだてめぇ」
「は?」
「気になるものって何だよ」
「…、いや…」
それでも言わないつもりなのか。
そして視線を反らしてベル坊のところへ行こうとするヒルダにますます腹立つ。
問いただそうとヒルダの腕をめがけて腕を伸ばす。
が、それはニヤケ顔の姉によって憚られた。
「あんた気になるの?」
「は?」
「そりゃそうよね、嫁だもん」
「なっ…!誰があんな奴!」
「ヒルダちゃんも美人だしねー、ほら辰巳、周りを見てみなさいよ」
「……、チッ」
姉に言われて見れば、確かに姉の言っている意味が分かった。
向けられているのだ…複数の男たちの、下卑た視線。
「〜〜っ!…おいヒルダ!!」
とうとう我慢できなくなって、いつの間にかベル坊を抱き上げているヒルダの元へと向かう男鹿家長男だった……
「なんだかんだ言ってラブラブじゃない」
弟と義妹の仲を心配した姉がぽつりと呟いたのは誰も知らない。