特別な品

□幸せ者
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ポン、ポン

主の親である男鹿が、彼のベッドの上で眠る主のお腹に優しく手を置く。
そのリズムが穏やかで、うとうとしていた主がついに瞼が下がった。


「ん?ベル坊寝ちまったか…」


主の顔をみて穏やかに微笑む男鹿。
こいつがまさかあの“アバレオーガ”だなんて。
出会った頃の凶悪さなんて嘘みたいだ。


……あれ、これでいいのか??


“男鹿辰巳”は坊ちゃまの親、つまりは触媒、契約者として選ばれた男だ。
坊ちゃまが力を発揮し、人間界を滅ぼすための触媒。
坊ちゃまの力を発揮するためには、男鹿は凶悪でなければならない。

なのに今はあまり見せない笑みまで見せて。

そして私は、その雰囲気に流されてる。


「ヒルダ?」
「あ、あぁ…」


こっちこいよ、と腕を引っ張られて男鹿の腕の中へと収まる。

坊ちゃまが寝たら行う行為だ。

「はー生き返る」
「………」

何故私はこれを甘んじて受けているのだろう。
いずれ滅ぼされるはずの人間に、何故。


「…何で、」
「ん?」
「何でこんなことになってるのだ?」


見上げると、少しばかり目を見開く男鹿と目が合った。
男鹿は腕の力を緩めずに考えるそぶりをして、しかしすぐに「そりゃあ」と口を開いた。


「俺がそうしたいから」
「……単純」
「んだと?」
「ま、貴様らしいが」


人間的に丸くなったとはいえ、基本的な思考回路はそのままらしい。
それにどこか安心してる自分がいて、気付いたら男鹿の胸に寄り添っていた。


「ヒルダ?」
「ん?」
「……何でもねぇ」


背中に回された男鹿の手は暖かくてじんわりと温もりに包まれた。


「私は幸せ者だよ」


坊ちゃまがいて、男鹿がいて、温もりに包まれて。

手放したくない、と思った。


「んじゃもっと幸せにしてやる」
「?」
「俺とベル坊がてめぇを幸せにしてやるっつー話」


ずっと一緒に居るからな、と堂々と宣言され、私の心拍数は一気に上がったのは言うまでもない。















プロポーズみたいだ……


何か言ったか?


いやっ、何も!?


……ん?











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