特別な品

□視線の先に
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「ウィー!!」
「そうかうめぇか」


そりゃ良かったと坊ちゃまの頭を撫でる男鹿と喜ぶ坊ちゃまは、どう見ても親子である。
そしてまた坊ちゃまは笑顔で男鹿の作ったミルクを飲むのである。


「貴様…上手くなったな」
「は?」
「ミルクだよ」
「まぁ…毎日作ってれば誰だって上手くなるって」
「………」


そういう優しい表情、いつからしだした?
あの男鹿が……


「ふん、どうせ“先”の練習のためだろう?」
「先?練習??」


まだ15とはいえ、早くに練習しといて損はない。
まさか坊ちゃまを練習台にするなんて、なんたる侮辱。
………と、それは建前で。



もし、男鹿が“別の女”との家庭生活を仮定してのものだったら。
……悔しい、すごく。
仮にも同じ屋根の下に住んでて、しかも周りから“嫁”と言われてるのに。


「何の事だ?」
「貴様の子供が出来た時の練習だ。坊ちゃまを練習台にして「ちょ、待て待て待て」
「……む。」


人が話してるのに途中で止められた。
男鹿はというと、「うーん、これは重症だ…」と訳が分からない事を言い出す始末。


「鈍感とは思ってたが…」
「何の話だ?」
「先とか練習とか、そんなの全然思ってないからな」


真剣な瞳で見つめられ、思わず後ずさる。


「むしろ本番だと思ってる」
「……つまり?」


何が言いたいのだこいつは。
続きを促すと、男鹿はボッと顔を赤くして、口元をモゴモゴさせた。
……要領を得ない。


「だからその…確かにベル坊は俺の子供じゃないけど……」
「……」
「その、親代わりだから…で、お前も、親代わり、だろ?」
「まあな」
「っ…だから!!お前との子供が出来た時に困らないように…」
「なっ…!?」


今度は私の顔が赤くなる番だった。思わず俯く。
ど、どうしてこやつは、そんな事を言えるのだ…!!


「ヒルダ…」


熱っぽい声で囁かれ顔を上げると、数センチ先に男鹿の顔。
反射的に目を瞑ると、徐々に近づく気配………とぬくもり。


「「…………」」


……何だこれは。
胸が苦しい、でも嫌いではない。
何とも言えない感情が渦巻いてる。


「……そういう事だから」


さっき見た優しい表情を浮かべる男鹿の言葉に、ただ小さく頷く事しかできなかった−……






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