特別な品

□if
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もし、大魔王様が人間界を滅ぼそう、とお考えにならなかったら。


もし、私が坊ちゃまの親代わりとしての命を受けなかったら。


もし、男鹿と出会って無かったら−……




「ヒルダ?」
「……」
「ヒルダ!」
「っ…!?……び、びっくりさせるな」
「さっきから呼んでるんですけど…」
「そ、そうか…」


どうやら考えこんでて、目の前に男鹿がいたのに気付かなかったようだ……


「帰るぞ」
「うむ」


そうして坊ちゃまと帰路につく。
私が聖石矢魔学園に転入してから、格段に坊ちゃまのお側に居られる時間が増え、ささやかな幸せを噛み締めた。
それに……


「腹減ったー。コロッケ食いにいかねぇ?」
「アイッ!」
「そーかそーか、ベル坊も食いてーか」


んじゃいくか、と満面の笑みを浮かべる男鹿に胸が締め付けられた感覚。


どこかほろ苦く、そして甘い。

まさかこの人間界で、しかもこの人間によってこんな感情を知る事になろうとは。


「ヒルダ?」
「何だ?」
「お前今日おかしくねぇ?何一人で笑ってんだよ」


……知らずにそんな表情をしてたとは……末期だな。


「おい、いつまで突っ立ってる」
「あ?」
「坊ちゃまを待たせるな馬鹿者」



様々な“もし”で成り立った“今”。
それがいつその均衡が崩れるとは分からないけれど。

……幸いな事は、こやつが“鈍感”だったことか。


「そのままの貴様でいろよ」
「は?」
「自然体な貴様が…一番好きだ」


まだ気付かれなくていい。
この居心地いい“もし”で成り立った世界を手放したくはないから。







































−…なんなのこいつ、逆プロポーズ?




まさか最後の一言で“鈍感”男の火をつけ、自ら“もし”で成り立った世界を手放しそうになるとは、微塵にも思ってないヒルダだった−……









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