特別な品
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もし、大魔王様が人間界を滅ぼそう、とお考えにならなかったら。
もし、私が坊ちゃまの親代わりとしての命を受けなかったら。
もし、男鹿と出会って無かったら−……
「ヒルダ?」
「……」
「ヒルダ!」
「っ…!?……び、びっくりさせるな」
「さっきから呼んでるんですけど…」
「そ、そうか…」
どうやら考えこんでて、目の前に男鹿がいたのに気付かなかったようだ……
「帰るぞ」
「うむ」
そうして坊ちゃまと帰路につく。
私が聖石矢魔学園に転入してから、格段に坊ちゃまのお側に居られる時間が増え、ささやかな幸せを噛み締めた。
それに……
「腹減ったー。コロッケ食いにいかねぇ?」
「アイッ!」
「そーかそーか、ベル坊も食いてーか」
んじゃいくか、と満面の笑みを浮かべる男鹿に胸が締め付けられた感覚。
どこかほろ苦く、そして甘い。
まさかこの人間界で、しかもこの人間によってこんな感情を知る事になろうとは。
「ヒルダ?」
「何だ?」
「お前今日おかしくねぇ?何一人で笑ってんだよ」
……知らずにそんな表情をしてたとは……末期だな。
「おい、いつまで突っ立ってる」
「あ?」
「坊ちゃまを待たせるな馬鹿者」
様々な“もし”で成り立った“今”。
それがいつその均衡が崩れるとは分からないけれど。
……幸いな事は、こやつが“鈍感”だったことか。
「そのままの貴様でいろよ」
「は?」
「自然体な貴様が…一番好きだ」
まだ気付かれなくていい。
この居心地いい“もし”で成り立った世界を手放したくはないから。
−…なんなのこいつ、逆プロポーズ?
まさか最後の一言で“鈍感”男の火をつけ、自ら“もし”で成り立った世界を手放しそうになるとは、微塵にも思ってないヒルダだった−……