特別な品

□恋の味
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小さい頃から修行に明け暮れ、恋なんてしている暇は無かった。
それに弱い男は興味が無くて、更に“恋”から遠ざかっていった。

それでも良かった。

良かった、はずなのに…



「お、邦枝ちょーどいいところに」
「お、男鹿!?」


教室に入ると、ベルちゃんを背中にのせた男鹿がこちらに近づいてきた。
顔が熱くなる。
心臓も自覚できるほどうるさくなる。
息がしづらい。
…寧々の視線も感じるが。


「今から俺に付き合ってくれないか?」
「へっっ!!?」


わっ、と教室が騒がしくなった。
ま、まさか男鹿……


「なんだようるせーな…あ、邦枝、今から時間空いてるか?」
「じ、かん…?」
「ちょっと“買い物に”付き合ってほしいんだけど」


……何を期待しているのだ、私は。
男鹿がこーいう奴ってことは知っていたではないか。
それに男鹿は…


「俺、女が好きそうなの検討つかなくて…あ、別に俺からってわけじゃないんだぜ!?ベル坊があいつにどーしてもって……」


男鹿…
顔が赤いわよ。
そんなんじゃ、全然説得力無いもの。


「………遠慮しとく」
「え!?」
「貴方が選んだものなら喜ぶわよ、きっと」


それに、形だけ男鹿の隣に居たって虚しいだけだもの。


「………頑張ってね」


私は、笑えてるだろうか。
じんわりと目頭があつくなる。
だめよ私!
ここで泣いたら負け!
せめて男鹿が見てる間は…


「お、おぅ…」


そして男鹿はベルちゃんと一緒に教室を出ていった。


シン、と静まり返る教室。

…さて、私も帰ろうかな。
……こんな顔、誰にも見せられないもの。





















初めての恋の味は、とても苦かった。













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