特別な品
□認めたくない!!
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「あっつ…」
「時間帯が時間帯だからな」
現在時刻は18時少し過ぎ。
所謂『帰宅ラッシュ』で、勤務終わりの社会人や部活帰りの学生などが電車やバスに乗ろうと集中する時間帯である。
そんな時間に、頭の上に赤ちゃんを乗せた男子学生と、ベージュ色の買い物袋を肩から下げた女子学生が、人混みに揉まれながらもバスの中にいた。
「たく…人多すぎて冷房効いてねぇし」
「仕方あるまい。坊っちゃまがバスに乗りたいと…」
「本当タイミング悪ぃな」
赤ちゃんとはいえ男の子。乗り物に興味を持つのも納得できる。
偶然通ったバスに羨望の眼差しを向け、「あれに乗せて」と目で訴えられた。
時間もあるし(電撃もあるし)乗ってみたが…
失敗したな、こりゃ。
あまりの人口密度で動くことさえままならないし暑いし…
ふぅ、とため息をついた時、ヒルダの様子がおかしい事に気がついた。
「ヒルダ?」
「………………」
表情は見えない。
密着しすぎてヒルダのつむじしか見えないからだ。
だけど、バスの揺れに関係なく、ヒルダ自身が震えていた。
………震え?
なんとなく嫌な予感がして顔を上げると…
50台半ばだろうか…
しわによる弛みきった顔を更に弛ませているスーツ姿のオジサンがヒルダの後ろに立っていた。
「な、何を………!?」
「ふざけんなよ、テメェ」
カッと頭に血が上り、気付いたら痴漢してるオジサンの腕を握りメンチ切っていた。
それに恐れをなしたのか、オジサンはそそくさと逃げるように人ゴミの中をかき分け、どこかへ行ってしまった。
「す、すまない…」
「………」
この時の俺は、次のバス停で降りようと思っていた。
本当はまだ先だけど、一秒でも早くバスを降りたかった。
それにあのヒルダがやけに大人しかったのが気に食わなかった。
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