宝物

□A mischievous wind
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昼食を終えて教室に戻ったヒルダの目に飛び込んできたのは、不良達がなにやら頭を悩ませている姿だった。


「お」


「む?」

怪訝な表情で立っていたヒルダに気付いたのは神崎。




「いいのが居たじゃねぇか!」

その声に不良達から歓声があがる。

ヨーグルッチの箱を握り潰しゴミ箱に捨てながら神崎が近付いて来た。




「ちょっと面貸してもらうぜ」

「なんだ?ケンカか?」

違ぇよと言った神崎がヒルダの肩に手を回しまるで逃がさないとでもいうように不良達の輪へと連れて行く。

回された手を払おうとしていると一人の不良がヒルダの前に立った。




「オガヨメ!助けてくれ!」

「?」

ヒルダは近くに居た城山、夏目へと目を向ける。




「やっぱりこういうのは女の子に聞くのがいいよね」

「??」

会話も良くわからないままヒルダは神崎に背中を押された。






「ふむ、なるほどな」

話を聞いたヒルダはそう言って窓際に凭れた。




「どうすりゃいい?」

「そうだな…まずは跪いて許しを乞え」

「………オイ、話聞いてたか?」

神崎が呆れた声を出してヒルダを見た。




「うむ。この男が浮気をして彼女を怒らせたのだろう?」

「だから濡れ衣だっつってんだろ」

「そもそもオガヨメに聞いたお前らが間違ってんだよ」

携帯を弄りながら立ち上がった姫川をヒルダがギロリと睨み付ける。




「…なに」

「テメェも男鹿並にズレてるじゃねぇか」

「あんな男と同じにするな!」

心外だとでも言うようにヒルダが姫川のシャツを掴んだ。

瞬間開け放った窓から風がぶわっと入り込む。




「む…」

目に違和感を覚えたヒルダがパチパチと瞬きを繰り返す。




「…ゴミが」

「あァ?」

あまりの痛みに涙が浮かぶが異物は取れない。




「こっちからじゃ逆光になんだよ、神崎」

「なんでオレに振んだ」

チッと舌打ちをしたものの「見せてみろ」と言った神崎は矢張面倒見がいいのか。

ヒルダが上を向き神崎が顔を近付ける。




「…どこだよ…誰か目薬持ってねぇか?」

「はいはーい、持ってるよ」

そう言って夏目がポケットから目薬を出した。




「オラよ」

「…む」

それをヒルダに持たせたものの目も開けられないヒルダはキャップを外しただけで上手く目薬を入れられない。




「ハァ…貸せ」

神崎はそれを奪いヒルダの顔を上に向けて手を添え目を開く。

ポトリと液体がヒルダの目に入った。




「いいか?」

「う、む」

瞬間教室に殺気が立ち込める。

全員がその発信源へと顔を向けた。




「お、男鹿っ!」

悪魔の面持ちでどす黒い殺気を放ちながらじりじりと近付いてくる男鹿に皆怯え距離をとる。





「………かーんざーきくーん…あそびーましょー…」

「!」

ニタリと笑った男鹿はヒルダの後ろから腕を突き出し神崎を窓からふっ飛ばした。




「か、神崎さぁぁぁん!」

「うわぁ…綺麗に飛んだね」

城山は窓枠に手をつき叫び、夏目は感心したように手を翳して神崎が飛ばされた方を眺めた。




「ヒルダ…テメェ…なにしてた…」

「目にゴミが入ってな、取って貰っていた」

「ゴミ?」

クイッとヒルダの腕を引っ張りその目を見た男鹿。




「もう取れ、」

「「「おおお!」」」

ヒルダが言い終える前に唇を塞いだ男鹿は、こともあろうか舌まで絡ませたっぷりとキスを味わった。

ヒルダは肩を強ばらせたまま目を見開き男鹿を見上げている。

その耳は真っ赤で。




「紛らわしいんだよ」

そう呟いてヒルダを抱きしめた。




「な…」

「あービビった」

ヒルダの肩に顔をつけた男鹿。

ヒルダは困惑したまま立ちつくしている。

その手を取った男鹿は固まったままのヒルダを連れて再び教室を後にした。




「………オイオイ、見せつけてんじゃねぇよ」

バッチリそれを携帯に収めた姫川がドカリとイスに座る。




「………スゲーもん見ちまった」

「男鹿って意外に独占欲強いんだな…」

「神崎さん………」

「今のはレアだったねー。でも大丈夫かな?」

夏目がそう言った瞬間廊下から男鹿の悲鳴が聞こえた。




「あはは、やっぱりね」

「………あのー、オレの相談は?」














         A mischievous wind.             悪戯な風

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