宝物
□呼べなくて
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※男鹿が理科教師でヒルダが生徒です。
先生と呼ばないのには理由があった。
入学したての頃はそのいい加減な感じがとても先生には思えず先生だなんて口が裂けても言えなかった。
現在に至ってはまた別の理由があったりする。
ボサボサの頭、全身は黒で足元は草履。
それに正反対の真っ白な白衣を着た男を気付けば目で追うようになっていた。
「センセー、そこの元素記号オニ間違ってます」
そう言って由加はシャーペンの先を黒板に向けた。
「あ?」
カツカツとチョークを黒板に走らせる手を止めて自分が書いた文字を見上げる。
「あー、適当に直しとけ」
ガシガシとボサボサ頭を掻きながらそう言った男をヒルダは目を細めて見ていた。
授業を終えるチャイムが鳴り皆帰り支度を始めている中、担任がプリントを配りながら「ヒルダ」と名前を呼んだ。
ヒルダが顔を上げると「お前放課後居残り」と目を合わせずに言う。
「よーし、HR始めるぞー」
いつもダルそうなその姿を見つめながらヒルダは誰にもわからないくらい小さく溜め息を吐いた。
***
「…どういうことだ」
ヒルダは一人誰も居なくなった教室に居た。
外からは運動部の掛け声が聞こえてくる。
「あの男、何故来ない」
自分から居残りだと言ったのに姿を現さない担任に苛立った。
仕方ないと鞄を掴みヒルダは職員室へと足を向けた。
「あ?男鹿?知らねぇよ。準備室にでも居んじゃねぇ?」
この学校の教師は皆こんなヤツばかりだと溜め息が出た。
「…神崎先生」
「用が済んだら散れ」
シッシッとヨーグルッチを飲みながら手を払う神崎にヒルダはずいっと顔を近付ける。
「花澤が夏目と帰宅していたぞ」
こそっと耳元で囁けば途端顔色を変えた神崎が勢い良く立ち上がった。
「………煙草吸ってくるか」
とってつけたようなセリフにヒルダは頬を緩ませ職員室を出て行く神崎を見つめた。