宝物
□落ち着く場所
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男鹿は疲れきった体で玄関を開けた。
「おかえりなさいまし」
パタパタとリビングから音がして次いで見慣れた女がにっこりと微笑みながら手を伸ばしてくる。
「………」
なんだコレ。
ヒルダの顔を見ていくらか疲れが飛んだ気がしたのは気のせいか。
「なにをしておる、さっさと坊ちゃまを渡さんか」
「………」
舌打ちをしながらヒルダにベル坊を渡し、階段を上る。
「坊ちゃま、今日は学校でなにかされたのですか?」
「ダーブ!」
楽しそうな会話を聞きながら男鹿はドアを開くと鞄を床に落としベットに倒れ込んだ。
「どうした」
「………」
ギ、とベットのスプリングが軋みヒルダが腰掛けたのだとわかる。
男鹿はうつ伏せのまま顔だけを動かしヒルダをじと、と見上げる。
眉間に寄る皺が「なんだ」と問うていた。
「ちょ―――ぐえっ!」
「アダー!」
男鹿の言葉はベル坊が飛び乗ってきた衝撃によって遮られる形になった。
「ヒルダちゃーん!」
タイミング悪く階下からの呼びかけにスクッと立ち上がるとヒルダはいそいそと部屋を出て行ってしまった。
「………おいベル坊、ロッカーに籠城の次はこれか」
ドスンドスンと人の背中に馬乗りになってるベル坊の雄叫びを聞きながら男鹿は深く長い溜め息を吐いた。