特別な品
□ごっこ遊び
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「てめぇら…!」
「男鹿!?」
殺気を感じて振り向くと、公園にいるはずの男鹿が鋭すぎる殺気を隠そうともせずにこちらに向かってきた。
「何してんだよ…!」
「これは…」
何でも無い、と言おうと思った。
実際、何でも無いのだから。
しかし隣にいた男…東条が爆弾を投下した。
「(買い物に)付き合ってんだよ」
「てめぇ…!」
………頭が痛い。
東条は明らかに言葉不足だ。
しかも男鹿の殺気が増した。……信じたな。
「つうか嫁さん放っておくお前がわりぃだろ」
「人の嫁を取るお前の方が悪いだろ…!」
「そりゃ残念。今は俺の妻だ、なぁ“ヒルダ”」
「な゛!?」
「おい東条、これは…」
まさかその設定を出されるとは思わなかった。
もちろんお遊びなのだが、今の男鹿が聞く耳を持ってない。
案の定信じた男鹿から、『ブチンッ』と何かが切れる音がした。
……ブチンッ?
「こいつは俺の嫁だ、手を出すんじゃねーよ!」
ぐいっと引っ張られて男鹿の胸に背を預ける形になった。
「おい…!」
「ふざけんなよ……」
「っ!」
ヤバい。
男鹿は本気でキレてる。
「てめぇの方がふざけてんだろ」
「なんだと…?」
だから東条、余計な事を言わないでくれ!
どうすればいいんだ…!
「嫁ならちゃんと見ろ、ヒルダ寂しそうだったぞ」
「………」
……何も言えなかった。
こいつ、天然そうで案外人の事を見てるんだな…
「ほれ、これ持って一緒に帰れ、な?」
「お、おぅ…」
さっきまで持ってもらってた荷物が男鹿の手に渡る。
男鹿もいきなりの事でさっきの怒りを忘れたように呆けていたが。
「じゃあな、男鹿、“オガヨメ”」
「………!」
………本当、勿体ない。
人当たりのよい、石矢魔高校一の強さを誇ってた男とは思えない笑顔を浮かべて手を振る東条に感謝しつつ、帰路へとつくのだった―……
「結構楽しかったなぁ、夫婦ごっこ。……頼んだらまたしてくれるか?」
そんな恐ろしいことを呟いてるなんて、知るよしもなかった………