特別な品 2

□SweetSweet?
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「なんだこの・・・」

臭い、と続けようとして若干のめまいがした。
ダメだ、これは少し嗅いだだけでも倒れるレベルだ。
目の前には・・・おおよそ自分が作りたかったものとは程遠い、“異物”が出来上がっていた。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
一緒に臭いものみこみ、若干咳き込んだ。
ああ、これはもうゴミ箱行きだな。もう誰も知られてはいけない。
良かった、お義母様たちがいなくて。
早いうちに処理しなければ。
異物・・・つまり、当初の予定では“チョコレート”になるものを掴み、ゴミ箱へと入れるのだった・・・








「はあ・・・」

男鹿の部屋の掃除をし(主君に気持ち良く過ごしてもらうため必須だ)、男鹿の部屋を見回した。
いつもなら、ここで落ち着くのだが、今日は胸がモヤモヤして落ち着かない。
本当なら・・・

「バカだな・・・」

テレビでみたチョコレートのCM。
それを一緒に見ていたお義姉さまから言われたのだ・・・「チョコレート、渡してみたら?」

もちろん初めてのチョコレート作り。
しかしお義姉さまやお義母さまは、「要は気持ちよ」なんておっしゃるから。
美味しいチョコレートを渡して、見返して。
いや、渡して男鹿の笑顔が見られればいいな、なんて思ったりして。
それはガラガラと崩れ去った今、またため息をついた。

「ヒルダ?」
「お、男鹿っ!?」
「何そこで固まってんだ?」

寒かったのだろう、鼻を赤くさせた男鹿が主君を頭の上に乗せ、自分を気にするそぶりも見せずに部屋のこたつに入り込んだ。
というかいつの間に帰ったのだろうか。

「お前も入れば?」
「は?」
「こたつ」
「あ、ああ・・・」

手招きされ、こたつに足を入れた。
じんわりとぬくもり、なぜか心が落ち着いた。
のだが。

「む?なんだそれは?」

男鹿のカバンと一緒に置いてあった見慣れない袋。

「ああ、邦枝にもらったんだよ」

心がざわついた。

「何だろうな?」

この男は本当に鈍感だ。
今日この日に渡すものなんて一つしかないだろう。

「あ、これ美味そうだな」

やっぱり中身はチョコレートで。
明らかに邦枝の“手作り”チョコレート。ふんわりと、甘い匂い。
それにつられ、男鹿の表情も穏やかになる。
そしてパクリと一口。

「うわ、めっちゃうめえ」

もう一口、と主君と一緒に食べている。
表情は変わらないが、なんとも穏やかで。

「・・・すまない、私は失礼する」

いてもたってもいられず、立ち上がろうとしたのだが。

「で、お前は?無いの?」

あるよな?ニヤリと口角を上げた。

「な、何をだ・・・」
「チョコレート」
「・・・あるわけないだろう、馬鹿者が」

そう、あれをチョコレートと呼べるものなら、一度見てみたいものだ。

「誰が貴様なんかに」

いや、本当は貴様“だけ”に作ったものがあった。
過去形なのが恨めしい。

「いや、でもお前からチョコの匂いがするから」

なんか焦げ臭いけどな、なんて言うが。

「ま、失敗して捨てた、ってのがオチかな」

図星だった。
普段鈍いくせに、どうして今はこんなに鋭いのか。

「なんだ?俺に美味いチョコ食わせたかったの?」

くそ、この男という奴は・・・・!

「でもなあ・・・無いとなると・・・」
「・・・?」

再度ニヤリとする男鹿に、若干の寒気がした。

「お前、作ったチョコ味見した?」
「い、いや・・・」
「・・・そうか・・・、まあ、いいや」

何が“いい”のか。それを知ることは無かったのだけれど。

「・・・!!」
「やっぱ苦い」

ザラリと唇を舐められ、羞恥で顔がとてつもなく熱くなった。

「ごちそうさまでした」
「・・・ふんっ」

このお礼は高くつくからな!















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