はぐれ兎

□九匹
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「困らせちゃってごめんね?でも、大丈夫だよ。
私は伝えたかっただけだから」

「…」

「ただ少しこの感情を消すには時間が掛かるかも。
…だから、別に好きな人が出来るまで好きでいさせて?」


この、暖かくて幸せな気持ちをありがとう。

私の初恋が恭弥で良かった。


私は恭弥から離れようと、包む腕を外そうとした。
…その瞬間、



「…っ」


私は呼吸を奪われた。


「……ぷはあっ。何してるの、恭弥!」

「一人で話進めるの、止めてくれない?」

「だって、恭弥は優しいから。
きっと傷付けないように断るから、嘘をつかせる位なら自分から引きたいの」

「断るなんて言ってないよ」



恭弥が珍しく少し大きめの声を出した。
私が驚いて、ビクリと震えると恭弥の手が頬に宛てられた。


「僕の方がもっと前から君を見てたんだから」


そして柔らかく口元を緩ませた恭弥。

今私の心に溢れるのは、体中全てを蝕むのは、恭弥への愛しさ。



「いつも窓から見てて、無意識に君を追ってた」



毎朝早く来て、花壇の隅で兎とじゃれる壱花。
初めはただの興味だった。
いつまでこんな事を続けられるのか、と。

けれども気が付けば、花壇に彼女が来るのを待つようになっていた。
柄にも無く、見るからに弱そうで小さい彼女を守りたいと思った。


「君のマカがバレなかったのも、あそこに人払いをしたんだ」


もし見つかったら、彼女はもう来なくなる気がして。

「だから、僕からも言わせてよ。
壱花の事が愛しい」


そう言って額をコツンと宛てられた。
私の顔を見て、恭弥が"赤過ぎ"って笑う物だから私もつられて笑ってしまった。



「恭弥、大好き」







彼女は正に小動物。

なのに毎朝訪れる彼女からは目が離せなかった。
そして今、その理由がはっきりとした。



はぐれ兎
(それは毎朝幸せそうに微笑む)(彼女に惹かれていたからだ)
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