はぐれ兎

□八匹
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心ちゃんが明るく笑った。
どうやらさっきまでのモヤモヤは消えて無くなったみたい。

でも、何だったんだろう。



「ところでさぁ…」

「え?」

「心ちゃんってさ、恭弥の事好きでしょ」



心ちゃんの突然の言葉に固まる私を見て、"やっぱりー!?"と叫んだ心ちゃん。
好き?
私は、恭弥の事が好きなの?



「あのね、壱花…私が言うものなんだけどさ。
恭弥はすっごくモテる訳よ。
あの戦闘マニアなのは置いといても、あの顔でしょ?」

「う、うん…」

「誰かに取られる前に、早く告白しておきなさいよ!」

「えっ…こ、告白?」

「うんうん!」

「でも…まだ恭弥が、好きだって決まった訳じゃ…」

「好きだよ、壱花は多分。
だから私と恭弥の事が気になったんじゃないの?」


心ちゃんは私の腕を引いて駆け出した。



ねえ、誰か。教えてください。
モヤモヤしたのは心ちゃんが羨ましかったから?
恭弥の傍に居たこの8日間で私は、彼を好きになったの?


こんなにも胸が締め付けられて苦しいのは、恋をしているからなの?




「ほら、恭弥居たよ!

きょーーやぁぁーー!壱花が見つかったよーー!」

「なっ…心ちゃん!?」



ブンブンと大きく手を振って、数メートル先に居た恭弥に私の存在を伝える。

恭弥の、黒い瞳が私を捉えた。
視線が重なると、私は妙に意識して逸らしてしまった。

今、顔が赤いかもしれない。
この大きな鼓動を聞かれてしまうかもしれない。

私は恥ずかしさを懸命に堪えてもう一度恭弥を見た。



「ほら、行っておいで!頑張ってね!」


トン、と背中を心ちゃんに押される。
すると目の前には穏やかに、安心したように微笑する恭弥が居た。



「うふ、邪魔者は退散しないとねっ」



心ちゃんはぽん、と私の肩に手を置いて階段を駆け降りて行った。



「…良かった。君が泣いているかと思ったから」

「え?」

「さっき泣きそうな顔してたよ」


恭弥は私をその暖かい腕で包んだ。

唐突な事に頭が付いていかなくて、少しして自分の胸が異様に高鳴るのを感じてから、今の状況は。

"抱きしめられている"のだと、悟った。




君の温度
(その暖かさに比例して)(顔が異常な熱を帯びた)
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