はぐれ兎

□七匹
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私は特に行く宛てはなかった。
だから走って逃げたのはいいけど、どこに向かえばいいのか分からない。


取り敢えず階段を全速力で走ると、私の視界は屋上の入り口を捉えた。




「…風でも、当たろうかな」



キィ、と少し金属のかすれる嫌な音が鳴る。
風は思ったよりも強くて、勢い良く吹き込んできた。



「…誰も居ない」


私はホッとして柵の方へと向かう。
誰かに泣き顔を見られなくて良かったと言う安堵から、つい溜め息が漏れる。


…本当に、幸せが逃げていく気がした。



「(心ちゃんも…多分、恭弥が好きだよね)」


ズキン

また胸が痛んだ。
さっきから心ちゃんと恭弥を思う度に、胸がとても苦しくなる。

どうして?
優しくしてくれた恭弥と、心ちゃんが幸せになるならいいじゃない。
何で素直に喜べないの?


痛む胸を抑えるように、手を宛てる。
ドクン、ドクンと規則正しい鼓動が伝わってくる。


「…恭弥」


恭弥は、私の事をどう思ってるの?



バタン


入り口の扉が閉まる音が響く。

私は胸に期待が満ち溢れた。
恭弥かもしれない、と。



「きょ……

「こんな所に居たの!?恭弥が探してるよ!」



けれどそこに立っていたのは、


「風邪引いちゃうよ?
そしたら私が看病するけどね!」



恭弥の"好きな人"、心ちゃんだった。




もやもや
(心ちゃんの笑顔を見ると)(モヤモヤに包まれる)
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