はぐれ兎

□一匹
2ページ/2ページ



「ほら、ごめんね。今日はこれしかないの」


袋から一本の食べ易くカットされた人参を出す。
それを目の前の白くふわふわとした兎に分け与える。

この子は最近拾った兎。
家は飼えないから、安全なこの学校に置いてる。
理由は風紀委員の雲雀さんを恐れて、侵入者が来ないから。


「マカ、美味しい?」


マカとはこの兎の名前。
マカロンみたいに小さくて可愛いから、と言うなんとも単純な思想で生まれた名前。
でも呼び易いし、何より似合っているから満足。


「…ごめんね、また明日来るね」

マカの頭を二回撫でて、私は教室に戻ろうと立ち上がった。



「君、何してるの?」



ドクリ。
心臓が跳ねて、冷や汗が無条件に出る。

知ってる、この声。
直接話した事はなくても、生徒集会などで度々聞くそのテノールの音。

私は恐る恐る振り返った。


「不要物の持ち込みは校則違反なんだけど」

「あっ、ごめんなさい…!でも、この兎だけは見逃して下さい」



怯えながら、肩を震わせながら、必死に何かを守ろうとする。
それは弱い生き物が、自分より弱い物を守ろうとする動作。

…でも、


「もう随分前から見逃してた」

「えっ…」

「毎朝こそこそと、泥棒みたいにさ。
応接室からは全部見えてる」

「すみません、何でもしますから。
マカだけはどうか見逃して下さい…!」

ペコリと頭を下げて兎をかばうように抱き締める彼女。
顔は段々と青ざめて行き、震えもより一層強くなった。



「いいよ。その代わり何でもするんだよね?」

「は、はい」

「ならさ、風紀委員に入ってよ」




始まり
(そしたらその兎は見逃すよ)(悪い条件じゃないでしょ?)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ