永遠約束
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ベルの体が、消えた。
私はその事実をどう受け入れて良いのか分からなくて、大声で泣いた。
それがベルを苦しませると知りながら。
「大丈夫だって、オレは何処にも行かないから」
嘘ばかり。
何も言わせないで、自分ばっかり話して。無責任に消えて。
ねえベル、私これからどうしたらいいの?
私は、ベルが居ない生き方すら忘れちゃったみたいだね。
もう手を握ってくれた暖かい手も、あの独特だけど優しい笑顔も、抱き締められた穏やかな腕も、寄り添ってくれた肩も。
私の居場所は一瞬で、幻のように消えてしまった。
あの人懐っこい笑顔も、照れた仕草も、愛しかったそれはもう見る事が出来ない。
それがどうしようも無く悲しくて、寂しくて、一生分の悲しみを押し付けられたような感覚に陥った。
「ベル…」
愛しいその名前。
「ベル…っ」
私を愛してくれた人の名前。
「ベ、ル」
私の全て、人生そのもの。
この悲しみはいつ薄れてくれるのか。
これを思い出と呼べる日は来るの?
ベルを思い出して、笑える日なんて来るの?
そんなの無理だよ。
酸素を取り上げられたような物。
生きて行く上でベルと言う人は、こんなにも私にとって必要不可欠な人になってしまった。
ベル、ベル。
どうやったら貴方に会えますか?
約束を守ったら会えるんですか?
だったら私はもう会えないね。
もうこの涙は、ベルと言う鍵が無いと止まりそうにないから。
ベルの座っていた椅子に落ちる涙。
私の異変に気付いて、お姉ちゃんと旭が駆けつけて来た。
「大丈夫かよ!」
「ベル君、居なくなっちゃったの…?」
でも私には自分の鳴き声しか聞こえない。
もうこの耳は、ベルの声以外は聞こえないのかもしれない。
そんな事さえ思ってしまう。
「取り敢えず部屋に運ぶぞ姉ちゃん」
「そう、ね」
ミラは、本当にベル君が大好きだったのね。
私は神様を恨んだ。
勝手に引き合わせて、勝手に引き離す神様を。
ミラにとって何よりも大切な人を奪い上げた神様を。
「ミラ、私達が付いていてあげるから」
ベル君の代わりには、到底なれないけれど。
***
「…ねえ、ベル。忘れ物してるよっ…」
私がそれに気付いたのは部屋に付いて散々泣き叫んだ後。
全てを放出したのか、涙は出て来なくなった。
ベルが置いて行ったのは、ティアラ。
そして一本のナイフ。
わざとらしく目立つ机の上に手紙と一緒に置いてあった。
「…分かってたみたいじゃない」
自分が消える事を。
私はその手紙を、ベッドの上に座って読み始めた。
…言葉は話せるけれど、日本言を書くのは下手くそ。
未来へ
てがみ。かいたことなかったから、なにかけばいいのか分かんね。
でも多ぶん。よまれてるってことはおれいないんだろうな。
やっぱりやくそく、守れてないんだろ?
ポタ、ポタと涙が手紙を濡らす。
まだ全然残っていた。止まらない。
「…お見通しだね…っ」
でもさ、ないてももう会えないんだ。
多ぶんだけどな。
ほんとはずっとそばに いてやりかかった。
「ははっ…やりかかったって何よ…」
でもしかたねーんだよな。
おれをひろってくれてありがとう。
あのとき助けてくれたのが未来でよかった。
だからおれは知らないかんじょうをたくさんしれたんだ。
ぜんぶ、おまえのおかげなんだ。
あいせたのがおまえでよかった。
あいしてくれてありがとう。
おまえにはなんかいお礼をいっても足りないよな。
だからお礼のかわりに、てぃあらとないふをやるよ。
おれだとおもってっていうときにくわないけど、たいせつにしてくれよ。
「…うん、ありがとうベル…」
さいごに、これをいいたい。
ちょくせつは多ぶんはずかしくていってないだろうから。
最後の手紙
(おれはしぬまでえいえんに)(おまえをあいすとやくそくするよ)