以心伝心
□act.end
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あれから、せわしなく過ぎた時間。
銃を握ったまま離さない私を、フランとマーモンがベッドまで運んでくれた。それから書類を済ませなければならないと、心配しながらもマーモンが戻って行き、フランのみが部屋に残っていてくれた。
とくん。
心臓の高鳴りを隠せない。これは椎那を殺めてしまったからだろうか、それとも別の理由なのだろうか。二人きりの個室には私とフランの呼吸音だけが聞こえる。
「…フラン、ごめんね」
「怒ってませんよ」
「あと、ありがとう」
いつも私を守ってくれて。気が付いた時に必ず傍に居て、暖かい居場所となっていてくれたのは君だった。
「ミーが好きで一緒に居るだけなんでー。
お礼言いたいのは寧ろこっちですよー」
「うん、ありがとう」
「もうそれはいいんで寝てください、パーティーまで充分に体を休めてくださいねー」
そう言って優しく頭を撫でられると、安心して闇へと堕ちた。
***
「何ボーっとしてんだよ」
「え?あ、ごめん」
「王子が一緒に居んのに、あり得ねー」
「何その俺様!」
現在私はパーティー会場に居る。部屋に迎えに来てくれたベルとリムジンに乗って、慣れないヒールで会場を歩いた。9代目にも会釈して適当に楽しみ、現在はテラスで一息ついた所。
「それ、似合ってんじゃん」
「え。本当に?」
「馬子にも衣装ってやつ?」
「あはは、何でジャッポーネのことわざつかってんの」
失礼すぎ!とベルを叩けばベルも特有の笑いを零した。幸せだ。好きな人の傍に居るのはこんなにも幸せ。でも、物足りないと感じてしまうのは何故だろう、フランの顔が頭にちらついて無意識に会場を眺めてしまうのは何故なのだろう。
「さっきから誰か探してんだろ?」
「分かんない」
「ししっ、王子が答えてやろっか?」
ぐいっと顔を近付けられる。前髪の隙間からベルの目が微かに見えて、ああ綺麗だな。なんて柄にもなく見とれていると
「お前はカエルを求めてんの」
整った唇でそう告げた。
「フランを?」
「そうそう、王子のどこが不満なんだし」
「いや別に不満なんてないけど…!」
「へえ。じゃあオレの事好きなわけ?」
好き…。うん、好き。私はベルの事が好きな筈、だって居ない時にあんなにも悲しくて寂しかったんだからきっと特別な感情があるに違いない。
…そう、思ったんだけど。
「分からない」
フランが横に居ないのは、寂しいじゃなくて物足りない。欠けた気がするんだ。じゃあ何?私には好きな人はいないの、ベルじゃないの?
「ステラはカエルが好きなんだよ」
「フラン、を?」
「そう言う事。あーあ、王子が失恋とか無いわ。見る目なさすぎ」
「ちょっと待って、なんでそんな事を言えるの?」
退屈そうに欠伸をするベルに問いかける。だって意味が分からない、私は本当に何も自分を良く知らないな、分からない事だらけだもん。ベルは一瞬固まって、直ぐに勝ち誇ったように口元を上げた。
「だってオレ、ずっとお前の事見てたし」
だからお前以上にお前の事が分かる、と付け足すとカッと顔が熱を帯びた。
「行けよ、カエルの所にさ」
くいっとベルが親指で示す場所にはフランが居た、好き…なのかな。意識するとまたとくん、とくんと胸が鳴る。ベルは私の背中を押すと、ひらひらと手を振ってどこかに行ってしまった。
「フラン…」
「ステラ?堕王子と一緒だったんじゃ…」
私の姿を捉えて目を丸くしたフラン、そんな仕草さえも何故だか愛しく思う。どうして今まで気付かなかったんだろう。この感情に慣れていたから?
「フラン、私」
「好きなんでしょー?ミーのこと」
「え!?」
「堕王子に背中押されるなんて、恥ずかしいですねー」
そう言って私の額にキスを落とすフランに、思わず赤面。どうして知ってるの、とフランに尋ねると、ああ私って思われているんだなぁと自分の事ながら思ってしまった。
以心伝心
(ステラの気持ちなら)(堕王子以上に分かりますよ)
君の事なら何でも知っている。
そんなフランとステラのお話。