以心伝心

□act.9
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「それじゃああとでね!」

「気が向いたら迎えに行ってやるよ」


手を振る二人に、笑顔で振り返す。
買い物を済ませた私達は現在基地に戻り、各々の部屋へと戻って行った。

私の手には、1つの紙袋。

ベルが選んで買ってくれた、綺麗なドレス。
嬉しいのと恥ずかしいのが混ざって、何とも言えない気持ちになった。


「(いいのかな…こんなに幸せで)」


私はそんな疑問を拭うように首を振り、駆け足で自室へと戻って行った。


***



カチャリ。


鍵を開けて、当然ながら誰も居ない部屋に足を踏み入れた。
倒れるようにベッドへ体を沈めると、疲れがどっと押し寄せる。



「…フラン」

机の上の写真立てには、ヴァリアーの皆が映っている。
私の両隣ではベルとフランが口喧嘩をしてた。

…当たり前だった光景は、今は写真の中でしか見られない。
それがとても悲しくて逃れるように写真を伏せた。


…思えばこうして一人になるのは余り無かった。
何故ならいつもベルとフランが傍に居たから。
馬鹿みたいな事で笑って、怒って、呆れて…楽しくて、でもそれが当たり前で。
今ではそれが一時の奇跡にも思える。


こぼれそうな涙を抑えるように、目の上に腕を置いた。



コンコン


「っ…!?」


控えめなノック音が部屋に響く。
返事をしないまま硬直していると、再び扉を誰かが叩いた。


期待が、顔を出す。


「フラン…!」


ガチャ。
扉を開けると、期待通りの人が姿を現した。
反射的に抱きつきそうになるのを堪えて、口を開こうとフランを見上げる。


「フラ、」

「はぁ〜い!椎那ちゃんだよぉ」

「!?」


ひょっこりとフランの後ろから顔を出したのは、私から大切な人を奪い掛けた椎那。
そしてその隣にはマーモンが立っていた。



「えへへ、フランとマーモンからお部屋聞いちゃったぁ!」

「まさ、か」

「二人共ねぇ、椎那が好きらしくってぇ〜?
さっきから離れてくれないの!」

きゃっ、と二人の腕に自分の腕を絡めて含み笑いをする椎那。
二人はまんざらでもなさそうに照れて、されるがままの状態だ。


嫌な予感が脳裏をよぎる。


「フラン、マーモン?」

「何ですかー」

「何か用かい?」


「その子の事、好きなの?」


聞きたくない、でも知りたい、そんな矛盾した気持ちがグルグルと回り巡る。
そんな事ないと自己暗示のように自分へと言い聞かせ、早まる鼓動を抑えつけた。


「そうですが、何かー?」

「椎那になら全財産をあげてもいいよ」



何かが割れる音がした。

怒りを通り越した憎悪にも似た感情がこみ上げて、どす黒い心を生み出す。
この人が来てから皆おかしくなった。
理由は分からないけど、無理矢理心を支配される。

そんなの絶対に許せない。



「あんたの事なんて、誰一人として心から好いてない!
無理に自分に振り向かせたってそんなの虚しいだけじゃん!

フランとマーモンを返して!!」



「えぇ?何それ椎那わかんなぁい。嫉妬しちゃってるのぉ?」


クスクスと意地の悪い笑みを浮かべる椎那。
弱い私が逃げ出そうとするけど、もう繰り返したくない。

ベルのように、また大切な仲間を失うのは嫌だ…!


私はフランとマーモンの腕を引っ張り、椎那から離す。
そして怒ったように私を睨む椎那に平手打ちをして、精一杯の大声を出した。



「貴女はヴァリアーの仲間じゃない!
もうこれ以上私の大切な人達を傷つけないで!!」


人を、こんなにも憎いと思ったのは初めてだ。

歯止めが利かない程に怒り狂い、私は椎那を突き飛ばした。



戻り行く歯車
(私はもう)(譲らない)

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