以心伝心

□act.7
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堪えた涙が溢れそうになる。
強く唇を噛み締めると、ルッスが肩に優しく手を置いた。


「大丈夫よ」

「…っうん」


ガチャ。


微動だにしない私を見て、代わりにルッスが扉を開けた。

…時が止まったような感覚。
扉の前にベルが立っていて、私を見据えていた。
視線が、絡み合う。


「ベ……ル…」

「…ごめん」

「え?」


次の瞬間、ベルに力強く抱きしめられる。
その腕はカタカタと小刻みに震えていて、ベルが泣いている事を知った。


「ごめん、ごめん、ごめんっ…」

「ベ、ル」

「本当はあんな事思わねーし、言いたくなかった」

「じゃあ何で…」

「…分かんない」



「あの子じゃないかしら」


ルッスがベッドで気絶している椎那を促す。
ベルは一瞬驚いたように肩をビクンと震わせた。


「そう言えば…あいつ見てから、何か可笑しくなった…」

「どういう、こと?」

「頭ン中洗脳されたみたいに好きだとか、愛してるだとか。
そんな言葉がグルグル支配してきた」

「…フランと同じだ」


フランも彼女を見た時にそうなったと言っていた。

…じゃあ何?
あの子を見るとみんなそうなるの?



「私は何ともならないけど…」

「ルッスは女の子だからじゃないの?」

「何言ってんだって、こいつは生物学上には男だっつの」

「何よ、学問じゃ証明出来ないココロがあるの!
私は心がオンナなのよ!」

「そうだよね、ルッスは私のお母さんだし」

「お前こいつの腹から産まれたのかよ、悲惨過ぎ」

「キィーー!何よもう!」


ハンカチを加えてクネクネするルッス。
私はベルと顔を見合わせて、笑った。

さっきまでの空気が一転して、和やかな雰囲気になる。

…でも、



「(足りないよ…)」


「王子あんまこういう雰囲気慣れない」

「私も駄目ね、肩が凝るわ」

「んじゃ取り敢えず移動すっか」

「そうね、行きましょうステラちゃん」

「う、うん」


私の隣にルッスとベルが立ち、歩き出す。

足りない。
こんなに寂しく思うのはどうしてなのだろう。
好きな人が隣に居るのに、癒えない、埋まらない。



「(フラン…)」


貴方に謝りたい。
そしてまたみんなで楽しく話そうよ。


思えばいつも一番近くに居てくれたのは、フランだった。



「…っく…」

「どうしたの?」

「何泣いてんだよ」

「……ごめ、な…さ…」


ポロポロと小粒の涙が幾つも落ちる。

寂しい。
傍に居るのが当たり前になり過ぎていた。
もうフランもベルも、私の一部のように欠けてはならない存在になっていた。

こんなにもフランの存在は、大きい。



「カエルだろ?」

「…う、ん」

「謝りたいなら後で幾らでも謝れよ、今メソメソしてたってカエルは居ないんだぜ?」

「そうよ!貴女は笑顔でフランちゃんに謝ればそれでいいのっ!
ほら分かったら泣かない!」

「ありがとう、ベル、ルッス」


二人は優しいから。

私はいつかその優しさに恩返しをしたい。
いつも支えていてくれる人達に。




ありがとうの代わりに
(私はもっと)(強くなりたい)

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