以心伝心
□act.6
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-ベル視点-
「…何だよ」
ステラが去った扉を、ぼんやりと眺めた。
モヤモヤとした何かが渦巻く。
クルシイ、クルシイ。
「ベル、どぉしたの?」
「何やってんだ、オレ」
「え、…きゃあっ!」
ベルは椎那の喉元に鋭利なナイフを押し付けた。
プツリと皮膚が切れる音と共に、赤い血が喉を伝う。
「オレの好きな奴はお前じゃねーよ。
お前さぁ、オレに何かしただろ?」
「し…てな…」
「うぜぇんだけど。
どうしてくれんの、さっきの言葉」
あんなの、あいつに向けたい言葉じゃない。
本当にオレはどうしていたんだ。
こんな、
「ステラ…!」
こんな大切な奴を見落とすなんて。
ベルは椎那の首に手刀を落として、気絶させた。
思えばいつからだったのか。
あいつの傍に居たいと、強く願うようになったのは。
「ベル様!」
「何、新入り?」
「はい!えっと…ス何とか隊長の部下になりました、ステラと申します!
ベル様に挨拶に赴くよう、XANXUS様から言いつけられまして…!」
「うしし、ごくろーさん」
あれがオレとステラの最初の会話。
あの雰囲気がヴァリアーには似つかわしくなくて、妙に心穏やかにされた。
裏表がなくて明るく接してきたあいつに、興味が湧いた。
「なあ、案内してやるよ」
だからあの時呼び止めて、驚くあいつを無理やり連れて歩いた。
…楽しかった。久しぶりに誰かと会話をする事に喜びを感じた。
せかせかと歩いて付いて来る姿が妙に笑えて、思わず吹きそうになる。
「また来てやるよ」
そして約束した時は、少し嫌そうな顔をされて地味にショックを受けた。
…だからなのか知らないけど、オレはあの時に思った。
"こいつを、落とす"
「あ、ありがとうございます…」
「何か困った事があったらオレに聞けよ、これアドレスな」
…それからだ。
毎日オレは通い詰めた。
任務がある日は朝一番で会いに行って、2日以上かかる日はメールを送った。
いつも適当にあしらいながらも、きちんとオレと向き合ってくれるあいつと居るのが楽しかった。
思えばあの頃にはもう、オレが落とされていたのかもしれない。
なのに…。
さっきの暴言脳裏をよぎる。
傷付けた、絶対に。
もうあいつはオレの元には戻ってこない。
そう思うと無性に泣きなくなるような、ぐちゃぐちゃな気持ちになった。
会いたい。
会ってもう一度話して謝りたい。
そう、らしくもなく神頼みというやつをした。
だからこれはきっと、必然。
「ベルちゃん、居る?」
「…ベ、ベルっ…」
扉の向こうから、聞きたかった声がしたのは。
愛しい奴の声がしたのは。
きっと、
呼ぶ、再生
(もう一度だけ)(やり直すチャンスが欲しい)