以心伝心

□act.4
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「入りますよー」


ベルの部屋の前。
私とフランは香水の薄い匂いを辿って此処に着いた。
そう言えば昔は結構女を連れ込んでたらしい。
まあそれは、私が入隊する前だとか。


「どうしたんですかー?」

「な、んでもない!」


ガチャッとベルの部屋のドアノブに手を掛けた。
あああこうなったらやけくそだ!


「ベルは居るーー!?」

「大胆ですねー」


ダン、と足を踏み出すぞいいーっぽ。
もう入り慣れた部屋は相変わらず汚い。
この前掃除したばっかりなのに、もうこんなにしやがって。


「ベル、どこ?」

「…ステラ、帰りますよー」

「え。なんで、ちょ!」


私の目に手を置いたフラン。
真っ暗、怖いです。
私は必死に抵抗してフランの手を微かにずらした。


「ーーー!!」

「見るな!」


初めて聞いた荒げたフランの声。
でももう遅かった。

そこにはベルと椎那が…。



「本物の堕王子ですねー」


冷たいフランの声。
そしてそれを向けられたベル。
今二人が、どんな表情をしているのかは分からない。

ただ見えたのは、


「は?堕ちてねーよ」


服が微かにはだけた椎那と、唇を重ねていたベルの姿。
心臓が握り潰されたような感覚に陥った。


ドクン



「ベルぅ、どぉしたの?」

「別に、何もないから」

「早く追い出してよぉ…」


そしてまたあの上目遣いをする椎那。
フランは黙れと言わんばかりに、椎那を睨んだ。


「いやぁん、こわぁい!」

「姫に何してんだよカエル」

「もう二度とステラの前に姿を見せないでください、堕人間」


酷く低い声だった。
その声音に肩がビクリと跳ねる。
怖い。
初めてフランが怖く思えた。



「安心しろよ、そんな女に興味ねーから」


"ししっ"と笑うベルの声はいつもより何倍も、何倍も冷たくて感情がないみたいだ。
私はただ薄れ行くベルの優しさに涙がボロボロと落ちる。

私、何かしたの?



「ミーが付いてますから、大丈夫ですよ」

暖かい声でふらつく私を抱き抱えたフラン。
どうして、そんなに優しくしれくれるの。
今の私にフランは残酷過ぎた。


「…1人にして」


自力で立ち上がると足がもつれた。
そんな私を見て笑う、椎那とベル。
その声が耳障りで私は自分の暗具を取り出し、二人の真ん中目掛けて投げた。


トス、と刺さるのは鋭く研がれた刃。


「何、喧嘩売ってんの?」

「そう思ったなら買えばいいじゃん」

「ウザいんだけど」

「何て思ってもいいよ、私は今のベルが大嫌い」


強がってそんな事を言ったけど本当は大好き。
あんな事を言われたのも、うざいと思われたのも本当は凄くショック。
私は、ベルを異性として好きだったのかもしれない。

でもそう言わないと今にも押しつぶされそうだったから。


「フラン、ありがとう」


優しくしてくれた貴方に。
そんな言葉では感謝仕切れないけれども、言いたかった。


「そして、さようなら」


分かってた。
今の私にはフランと共に居る資格はない。
気付いてたから。


手を引かれた時に好きだと小さく聞こえた声が堪らなく悲しかったから。
そして答えられなかったのも私がフランに気持ちがないから。

利用してるみたいになるのが嫌だ。



私は扉を閉めて、二人との絆を絶った。





本心と嘘
(本当は二人とずっと)(笑い合いたかったよ)

でももうそこには、私の居場所はない。

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