以心伝心

□act.3
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「ちょっと!痛いってば…!!」


手を強く握り締めていたフランが立ち止まった。
何なの、さっきから変だ。

ベルも、フランも。


「あの椎那って奴ー、早急に追い出した方がいいかもしれませんー…」

「え、どうしたのいきなり」

「おかしいんですよー、あの女を見た瞬間」


鼓動が強制的に高鳴って

無理矢理、顔に熱が集まるような
スキ、スキ、スキ
その言葉が洗脳するかのように脳を駆け巡ったのだ


「……………一瞬とは言え、ステラ以外にあんな風な感情を抱くなんてー」

「何?聞こえない」

「何でもありませんよー」


寂しそうに笑ったフランを見ると、無性にいたたまれない気持ちになった。
こんな時はいつもベルがフォローするけど、今は椎那とか言う人に絡んでいる為に叶わない。
いつもの居場所が欠けたような感覚。


「…あの人、スパイなのかな」

「その可能性もありますよねー。
でもどうやって侵入したんだかー…」

「おかしって。迷う訳ないじゃない」


確かに中は広いけれど、常人では入り込む所か近付く事すらままならない筈。
それに初めて目にした瞬間、ベルとフランは異様な反応を見せた。


…何かがおかしい。


「フラン、やっぱりベルが心配だよ」

「そうですねー。堕王子が情報漏らしかねないのでー」

「っ行くよ!」


毒突きながらもきっとフランなりに心配しているんだろう。
私の手を再び取り、前を走る姿が物語っていた。
本当は何だかんだ言ってもベルが好きなんだな、なんて。



「フラン」

「何ですかー」

「もしも、1人になったらどうしよう…」


ベルのように1人、1人、私から離れて行ってしまったら。
拠り所が無くなったら私はどこに居ればいいのだろう。

今の今まで共に居たベルは、まるで少年のように椎那に言い寄り楽しそうに笑ってた。

…嫌だ。
私の居場所を取らないで。

奥の奥に潜んでいる醜い私が顔を出す。



「大丈夫ですー。ミーがずっと傍に居ますからー」


ギュッと握られた手はとても暖かかった。
不安を少しずつ溶かすような、心地良い温度。

こんなフランの優しさが堪らなく嬉しくて、辛い。


「ごめんね、ありがとう」


フランにとって私はきっと重荷だ。
でも離れられないし、いつものように笑い合いたいと言うのが本音。
ごめんなさい。
まだ1人で生きるには未熟過ぎるの。


「ミーはいつでもステラの居場所ですからー」


そう言った、フランの表情も知らずに時は過ぎて行く。


***


「ベル…!!」

「ベルセンパーイ、どこにいるんですかー?」


先程別れた場所にはベルの姿は無かった。
代わりにベルの付けている香水の匂いが少し漂う。


「…先輩の部屋じゃないですかー?」

「う、うん!」


ベルの部屋はここから近い。
それにベルが通ったのか、ほんのりと香水の匂いも残っている。
フランはその香りに顔をしかめながら、ベルの部屋へと向かった。


(…嫌な胸騒ぎがする…)


どうか、ベルが無事でありますように。

私は祈るように天井を見上げた。



どうか貴方が、
(元の人懐っこい貴方に)(戻りますように)

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