以心伝心

□act.2
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「おはようございますー」

「うしし。はよ」

「おはようございます、さよおなら」

「待てっつの」

「傷付きますー」


朝から私の部屋にお邪魔する二人。
いつも通り。皮肉な事にも。
最初こそは抵抗があったが、今は流す事が出来るようになった私は本当に凄い。



「取り敢えずご飯食べましょうよご飯ー」

「ステラ、奢ってやるよ」

「わー、ありがとうございまーす」

「お前じゃねぇよカエル」


グサリグサグサ。
フランの頭にナイフが突き刺さる、いたた。
フランは涙目になって抗議している。


「もういいですー、行きましょうステラー」


ぐい、とフランに腕を掴まれて部屋から連れ出されそうになる私。
しかも何か地味に対抗してもう片方の手を引っ張るベル。
ちょ、もげる!!


「離せよ!いだだだだ」

「煩いですねー、口塞ぎますよー。
…ミーの口で」

「今ボソッと鳥肌が立つような発言された。きしょい」

「うしし。王子も同感。ミートゥー」

「二人とも後輩は大切にして下さいよー」


特に堕王子、と余計な事を言ってナイフを投げられるフラン。
避けたフラン、壁に刺さるナイフ。
此処、私の部屋なんだけど。


「やっべ怒らせた?」

「怒らないよ、だから死ねよ堕王子」

「違いますよー、駄王子ですー」

「あ。そっか」

「おいおいおい。
何普通に仲良くしちゃってんの」


ドスッと私の分までナイフを投げられたフラン。
うはは、どんまい。


「もう知りませんからー」

「何がだよ」

ベルの突っ込みを無視してガチャリと扉を開けたフラン。
え、何がしたいのよ。


手を掴まれたままの私と私の手を掴んでいるベルは、芋蔓式で部屋から出た。
ころん。


「ちょ、フラン………って、あれれ。どなた?」


思えばこの時からだ。
私の日常が変わってしまったのは。

皆が、変わってしまったのは。



「あ、あのぉ…迷っちゃったみたい…なんですぅ」


ペタリとその場に座り込んでいたのは、1人の少女。
しかもワザとらしい上目遣いでベルとフランを見つめている。


何、どうやったら迷うのよ。
此処はヴァリアーの本部なんだから、入り込む前に殺されるに決まってる。

ちらりとベルとフランに目を見やると、そこには信じられない光景が。



「ベル、フラン…?」

顔を赤くした二人がそこには居たのだ。
しかもこれは、熱とかじゃない。

好きな人を前にした時、と言う言葉が当てはまる表情。


「大丈夫かよ、お前庶民にしては可愛い顔してんじゃん。
名前なんてーの?」

「ミーも知りたいですー」


少女に手を差し出して、立ち上がらせたベル。
繋がっていた私達の手は、もうほどかれていた。


「し…椎那です、しぃって呼んでください、ね?」

「ふーん、良い名前じゃん」


おかしい、絶対におかしい。
ベルがここまで異性に興味を持つなんて、あり得ない。
私はベルじゃないから何とも言えないけど、一目惚れをするなんて性格ではないと思う。

フランも同時にだなんて、妙だ。

視線をフランに移すと、先程とは違う無表情のフランが椎那と言う少女を見ていた。


「…今のは、何ですかー…」


それだけ独り言のように呟くと、フランは私の手を取った。
さっきよりも強く握られる。


「…行きましょうー」

「えっ、ベルは?」

「椎那とか言う奴にデレデレですからー。
ミー達だけで行きましょうー」



そう言って前を歩くフランの表情は、とても悲しそうだった。
どうして、今の一瞬で何があったの?
侵入者なんていつも殺していたベルが、その侵入者に一目惚れ?


意味が分からない。


私は歩きながら後ろを振り向いた。
そこには照れながら話すベルと、可愛いこぶる椎那の姿が見えて苛々した感情が顔を出す。

何かが変わってしまった気がした。



異変
(さっきまで話していた)(ベルはそこに居なかった)

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