ANOTHER


□カルネアデスの板
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『ヨットで漂流五日間 女性死亡、男性のみ生還』

 ネットで、ふとそんな記事を目にした。

 確かそんなことを、昼間のワイドショーあたりでもやっていたように思う。真宵ちゃんに聞けば、きっと詳しいことを教えてくれたのだろうけど…彼女は三日前から実家のある倉院の里へと帰ってしまっていた。

 片方だけが生き残るなんてかわいそうに…

 僕は、ふと…そんなことを考える。

 誰もいない海に、たった二人だけで残されて、最愛の彼女を助けられずに見取るなんて辛いだろうな…とも。

 その気持ちに感応してしまったのか、気分がずんと重く…そして胸が痛い。口の中も苦い。

 自分の中の負の感情の高まりに、僕はなんとか目を瞑ってそれをやり過ごそうとしたけれど…胸を突き上げ、押し上げるのはただ…息苦しいまでの不安。そして、焦燥。

 だから、無意識にポケットの中の携帯電話を探っていた。

 そして、履歴の最初のナンバーを…ためらい無く押した。

 小さく鳴り響く、呼び出しコールの音。

 ひょっとして審議中だったりして…と思いながら、彼のスケジュールを思い返す。そんな僕に、振って沸いたようにコールが鳴り止み…

『もしもし…』

 と、低く…そして優しい声が耳を打った。

「御剣…僕だよ」






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