揚羽蝶

□第一章〜出会いの刻〜
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「ねぇ、いい加減起きてよ。」

すごい勢いで揺さぶられる。

内臓がシェイクされる感じというか、脳みそが混ざる感じというか…。


「折角拾ったのに、3日間寝込んだままだからなぁ…。」

耳元から聞こえてくる声は不満を漏らしているが、妙に楽しそうだ。

「おい、総司。病人かもしれないのだからもう少し労わって…。」

あ、この人はいい人だ。

声からも心配しているのが伝わってくる。


「一くんは真面目すぎるんだよ…。」

まぁ、確かに多少は真面目かもしれないが、寝込んでいる人には優しくするのが…。


ん?

ここで私は違和感に気づいた。


耳元の声、やたら森久保さんボイスに似てるような…。

それに、『総司』とか『一くん』とかよばれる人なんて一人しか知らなかったり…。


ゆっくりと意識を覚醒させていく。

目の前には誰もいない。

少し、周りを詮索した方がいいだろうか。

そう思い、体をひねる。


「ああ、起きたの?」


真横に、ニコニコ笑う人がいた。

明るい茶色の髪に紛れもない森久保さんボイス。

大きく開かれた双眸は緑の瞳を…。

「沖田さん!!」

「ん?何?」


相変わらず微笑んでいるその人を見て呆然とする。

「君は?名前教えて?」

「へ…。えーっと…。」

ここは実名を言った方がいいのだろうか。


目が覚めるのにあわせて、フリーズしていた脳が働き始める。

「落ち着け。情報を整理していけ。」

声がした方を振りむく。


まぁ、予想は大体ついているが…。

振り向くと、本当に予想通りというか…。

漆黒の髪をした小柄な人が綺麗に正座していた。

「斎藤さん…。あなたもですか。」


思わずポツリとつぶやくと、斎藤さんは怪訝そうに眉をひそめた。

「何故、俺の名を知っている?」

…流石に、『毎日、あなたで頭が一杯だからです』とは言えない。

「えっと、噂でよく聞くからというか…。」

「容姿まで…か?」

ヤバイ!!

完全に墓穴を掘った。


「その…。」

困っていると、沖田さんが助け舟を出してくれた。

「京都に住んでるなら、よく顔も見るからね?」

「あ、はい!!そういうことです!!」


ありがとう!!

頭の中で沖田さんへのお礼が羅列される。


ニッコリと微笑んだまま、沖田さんが次の言葉を発する。

「それでね?僕たち、この辺りの住民の顔は把握してるんだ。」

「…はい。」

何故だろう。

とても嫌な予感がする。

「君この辺りの住民じゃないよね?」
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