揚羽蝶

□序章〜変化の刻〜
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夏の校舎というものは、クーラーがないこともあってかなり暑い。

最も暑い8月には、夏休みというものが設けられているので、かろうじて夏を凌げるという程度だった。


「それで、本当にいいのか?」

「しつこいですよ?」


そんな中、職員室で向かい合っている教師と生徒(私)が一組。


本当にしつこい…。

嫌になってきた。


「いや、でもこれは…。」

担任は、私が提出した進路希望書とにらめっこしている。

となりにいる副担任も苦笑いだ。

「私は、本気ですから。」

「一条…仮にも成績トップという自覚は?」

「ありません!!むしろ、いらないと思っています!!」


進路希望というのは、一般的に第一希望から第三希望まできかれる。

私が希望する進路なんて一つしかありはしないので、その全てを同じ言葉で埋めた。


『トリップしたい』


そして、結果。

本来呼び出されることのない生徒(私)が呼び出されているというわけだ。


本当に、今時の教師は…。

「トリップって…旅行会社とかいう意味ではないよな?」

「だから言ってるじゃないですか。
 幕末の江戸に行きたいんです。」

もう、この質問も何度目だろう。


「…それは本気か?」

「何度言えば分かるんですか?」

こうなってくると、本気でエンドレスに会話が続く気がしてくる。


「参考までに一ついいか?」

「何ですか?」

「…何で幕末の江戸なんだ?」

…新手の質問だ。

ワンパターンな教師にしては珍しい。

にしても…この先生は本気で幕末の定義を分かっていない…。


バンッ―。


威圧的に担任の机を叩くと、職員室にいた全員が私に注目していた。

「理屈なんていりません!!
 幕末にロマンを求め、新撰組を信じ、カズ○ヨネさんの作品に期待するのが人間なんです!!」


「え?いや、突然何を言って…。」

「本当に仕方ないですね。」

ハァ…。

小さくため息をつく。

華○が出たとき、久々のカ○キヨネさんとの再会に涙した私をもう少し見習うべきだ。

あの絵は本当に反則だと思う。

「何で呆れられてるんだろうな。
 俺、どうすればいいんだろうな。」

担任は今にも泣きそうな顔で私を見ている。

「もう、いいです。
 あなたには失望しました。」
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