Dream
□Glossy
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Glossy
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「これで良し…っと。。」
…鏡を見て、1度だけ、んっと唇を合わせて、
新しくおろしたばかりの、新品の、リップグロスを付ける私の、頭の中に浮かぶのは、
大好きな、大好きな、“あの人”の、姿だけ。。
「ノエル…気が付いてくれるかな。。?」
前に、私の雑誌、“シンデレラ”で、“春物コスメ、大特集!”の記事を書いた時、
発売前の、有名な、と有るブランドの、
その、パッケージの、可愛いデザインと、春らしい、淡い、ピンクの、パステルカラーの、その色と…
そして、何より、唇に付けた時に、キラキラと輝く、その、煌きに…
一目見たその瞬間から、心を奪われ、予約までして、今日のこの日の発売日を、心待ちにしていた程に、
お気に入りの、リップグロスを…
1番に見て欲しい、愛しい人は、たった、1人だけ。。
「ん〜っ、変じゃないかな…っ?似合ってると、良いんだけどなぁ〜。。」
…幾ら、人1人居ない、誰も居ない、この空間の、化粧室だからとは言え…
さっきから、ついつい、大きな声でと呟く独り言も、多くなってしまう。。
…本当は、今日の、ノエルとの、久しぶりの、デート。。
買ったばかりの、春らしい、花柄の、ふわふわとした、シフォン素材の、ワンピースを着たり、
髪型だって、気合を入れて、もっと、可愛くしたかったけど…
思いの他、今、担当している企画のお仕事が、長引いてしまって、
軽く残業になりつつも、何とか、キリの良い所まで、終わらせて…
ノエルを、待たせる訳にはいかない気持ちはモチロンだけどっ、
…大好きな人に、1分でも、1秒でも、早く、逢いたくって。。
私は、1度、家へは戻らず、お仕事が終わった、その足で、
会社から出て、急いで、メイクを少し直しつつ、
大好きな人との、“いつもの、待ち合わせ場所”へと、向かう。。
…ん〜っ、いつもの、オフィスカジュアルだから、余り、
普段のお休みの時みたいに、可愛い服は着れていないけど…
今日は、せめて、真っ白の、首元に、リボンの付いた、サテン生地の、シンプルなブラウスに、
タイトなシルエットに、横に、少しだけスリットの入った、
丁度、膝の上にかかる位の長さの、紺の、スカートに。。
スーツ姿や、パンツ姿の“お仕事モード”な時の自分の服装と比べると、
偶然とは言え、今日は、ホンの少しだけでも、女のコっぽい服装で、良かったな…
何て、1人、ホッと、胸を撫で下ろし、
左手首の時計をチラリと横目で見ながら、
ドキドキと、早くなって行く鼓動の音を、落ち着かせようと、
瞳を閉じて、ふぅっと、一息、軽く、深呼吸をしていると。。
「…ゴメンね。。柚希…待った…?」
見慣れた、いつもの海外製の、その車が、バンッと開き、慌てた様に、少し急いだ様子で、扉を開けて、
私の元へと、駆け寄って来てくれる、愛しい、愛しい、その人に。。
「…ううん。。っ、ノエル。。今来たトコロ。。っ!」
“いつもの、待ち合わせ場所”の、その場所は、人気が無くって、暗い、地下の、駐車場。。
誰にも見られていないと言う安心感からか、
つい、普段の私よりも、少しだけ、気持ち的にも、大胆になってしまって…
そして、レースに、練習に、と…いつも、忙しくて、なかなか逢う時間の取れないノエルと。。
久しぶりに、逢う事の出来た、嬉しさから、
思わず、私は、ノエルへと、抱きついてしまう。。
…そんな私を、ノエルは、優しい笑顔で、ふっと微笑んで…私の事を、しっかりと、抱きしめ返してくれる。。
「…柚希、相変わらず、ウソ、下手。。」
ぎゅぅ〜っとノエルの力強い腕に抱きしめられたまま、スッポリと、ノエルの腕の中にいる状態のまま、
『?』マークの頭の中で、華奢に見えて、意外と、しっかりとしている身体付きの、背の高い、
ノエルの、整っていて、端整な顔立ちの、その、綺麗な顔を、見上げる、と。。
碧がかった、青い瞳を、ふっと揺らして、微笑むノエルは、
「…オレ、アンタの…柚希の姿、車からずっと見えてたよ。。?」
そう言いながら、瞳を閉じて、私に、キス…を、しようとしていて…
「えっ?あ…っ、ノエル、ダメ。。」
その、私の言葉よりも、一足早く、私の唇は、ノエルの唇で、塞がれていて。。
…先に、ノエルに、抱きついちゃったのは、私だけど…っ、でも、ダメ、だよ…こんな所で。。
誰かに、見られちゃったりした、ら。。?
そう想いながら、何とか、ノエルの腕から逃れようとする、と。。
普段の私と違う所に、ノエルが気付いてくれたのか、青い瞳が、スッと開かれ、
そして、不思議そうに、唇を、キュッと結ぶ。。
「ん…っ?ノエル。。?」
…あ。。今、ノエルとキス…しちゃった時に、私のグロスが、ノエルにも付いちゃったのかな。。?
「…」
無言で、眉を顰めて、唇を、もごもごと動かしている、ノエル。。
「あ…っ、ノエル。。あのね、コレ、ね。。」
新しい、春物のリップグロスを、今日、初めて付けた事よりも、
何だか、険しい顔のノエルに、謝ろうとしていた、その、瞬間。。
ぐいっと、あごをノエルに持ち上げられて、ノエルの、青い瞳の中に映る私が見える位に、
急に、ノエルとの距離が近付いた、その、瞬間。。
「…アンタ…柚希、今日、何か、口、テカテカしてる。。?」
今だに、自分の唇への違和感からか、口をもごもごとさせるノエルに、そして、その、ノエルの、
“テカテカ”と言う、可愛い表現に、思わず、私が、ふふっと、笑ってしまうと。。
「…な、何。。?」
…と、少しだけ顔の赤くなったノエルが、じっと、私を見つめる。。
「あのね、ノエル。。コレね、今日発売のリップグロスでね…」
私は、春物コスメの特集の記事を書いた事、発売日の、今日のこの日を楽しみに待っていた事を、
ゆっくりと、ノエルへと、説明をしていると。。
ふと、真剣な表情になったノエルが、私の瞳を、真っ直ぐ見つめて、こう言うの。。
「…柚希、コレ、今日、会社にもして行ったの。。?」
…んっ?違う、よ。。今日の、ノエルとのデートの時に、初めて付けたんだよ。。?
そう言うと、ノエルは、抱きしめていた腕を、さっきよりも、ぎゅぅっと、強くして。。
「…ん…柚希、コレ、ダメ。。俺と一緒の時だけ、ね。。?」
…え…っ、やっぱり、変だったかな。。雑誌で見た時、可愛くっても、
私には、似合わなかったのか、な。。?
そう想って、何も言葉を発せずにいる、と。。
ノエルは、私の耳元で、小さく、こう、囁いたの。。
「…柚希、可愛すぎるから…だから、ダメ。。」
そう言ったノエルの言葉が耳に入った、その、瞬間。。
私の唇は、またしても、ノエルの唇に、塞がれていて。。?
「ノ…ノエル。。っ、ここだと、その…っ、ダメ、だか、ら…っ!」
真っ赤になった私を見て、ノエルは、ふっと、優しく微笑(わら)うと、
「…ん…なら、後で、ゆっくり、ね。。?」
と、少し甘えるみたいに、でも、何処か、イタズラっぽい笑みを浮かべていて。。
…も、もう…っ!ノエルは、その、ハーフだからっ、“キス”は、挨拶って想ってるかもだけど…っ、
私、見た目、どこからどう見ても、純日本人だからっ、その…誰かに、見られちゃったりしたら、
恥ずかしいし…っ、それに、又、いつ、写真を撮られちゃうかも、分からないのに…っ!
何て事を、頭の片隅で思いながらも、ノエルの言う、“後で、ゆっくり。。”と言う、その、言葉の意味に…
内心、ドキドキしながら、小さく、コクリ、と、頷く、と。。
「…んっ、なら、先に、ご飯、食べようか。。?」
そう言って、優しく、抱きしめていた腕をゆっくりと解き、
ぎゅぅっと、強く、“恋人結び”で、手を繋いでくれた、
ノエルの、その、おっきな手と、あったかい、温もりに。。
嬉しくなって、安心出来て、幸せな気持ちになっていると。。
一瞬、碧がかった、青い瞳をイタズラに揺らして、
ふっと、私の耳に唇を寄せたノエルが、小声で、こう、囁いて。。
「…柚希、それとも、今、もう待てない。。?」
って、ちょ…、ちょっと。。っ!
「も…もう…っ、ノエル。。っ!」
多分、今日1番に、真っ赤になった私に、ノエルは、心から楽しそうに、あはは、と笑って。。
「…なら、柚希、オレの、車に乗って。。お店、今もう、予約してるから。。」
繋いだ手と手はそのままに、反対の手で、スッと、車の、助手席の、ドアを優しく開けて、
ノエルは、自然に、スマートに、エスコートをしてくれて…
私を、童話の中の、お姫様の、“シンデレラ”みたいな、夢の世界へと、連れて行ってくれる、
光輝く金色の髪に、青い瞳の、“王子様”。。
…ねぇ、ノエル。。“カボチャの馬車”は、私にとったら、あなたの車で。。
その、車に乗って、あなたが連れて行ってくれるのは、
お姫様の、憧れ、焦がれた、“夢の世界”。。?
…12時過ぎても、離れないでね?
私の事を、ずっと、ずぅっと、離さないでいて、ね。。
…解けない魔法を、覚めない夢を、私にかけて、そして、あなたは、見せてくれるのね。。?
“王子様”と、“お姫様”との、2人の、“幸せな夢物語”は…
これから先も、永遠に、続いて行くって、信じていても…想っていても、良いのか、な。。っ?
あなたの…“ノエル”と、“私”の、2人の、“幸せな物語”は…
“夢”では無いって、証明してくれる。。?
“眠らぬ街”の、この街で…“シンデレラ”へと、私を誘い、
“お姫様”へと、変えてくれる、素敵な魔法をかけてくれる、“王子様”。。
…何だか、本当、夢みたい。。
“サーキットの天使”と謳われ、多くの雑誌で特集されて、
深夜の生中継の、レースや、会見を、テレビでもよく、見ているあなたの…
こんなに穏やかで、安らかでいて、そして、可愛い…
本当の、“天使”みたいな寝顔を見る事が出来ているのは、
世界できっと、私、たった1人だけ、なのか、な。。っ?
…眠っていても、夢から覚めた、その瞬間、
あなたの綺麗な、透き通った、青い瞳に、1番に映る事が出来るのは、私、だけ。。?
…ねぇ、ノエル。。逢えない時間も、いつでも、私は、あなたを想っているからね。。?
“ガラスの靴”は無くっても…綺麗なドレスは、着ていなくっても…
“王子様”にとって、世界中で、たった1人の、“お姫様”は。。
ノエルにとっての、“シンデレラ”に、私、これかも、ずっと、ずぅっと、なれるかな。。っ?
**HAPPY END**