Story
□王子様と、執事の日常
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王子様と、執事の日常〜@〜
*
「クロード…
また、りるに何か、
ひどい事を言ったのか…?」
―ここは、フィリップ王国の、
ウィル王子様の、執務室―
透き通った、
綺麗なブルーの瞳を冷たく光らせ、
ウィル様は、
もう1度、
執事で有る、この、私…
クロードへと、問い掛けた…。
「…俺の質問に、答えられない、
とでも言うのか…?」
先程から、ずっと、胸に手を当て、
頭を下げている状態の私の頭の上に、
そして、部屋の中に…
静かだけれども、
激しさを含む声が、響き渡る。
「…申し訳ございません…」
やっと、口を開いた私を見て、
ウィル様は、ふぅっと小さく溜め息を付き、
腰掛けていた椅子の向きを、くるりと変える。
私に背を向ける体制となったウィル様は、
りる様が大切にお世話をしている、
花の入った植木鉢の置いてある、
窓越しに、外の世界を見つめながら、
ゆっくりと、口を開く。
「…なぁ、クロード…
ルイーザは、今、
元気にしているかな…?」
「―?」
ウィル様の口から出た、
婚約者の、プリンセスである、
りる様以外の、意外な人物の名前に、
私は、驚き、言葉を無くす―。
そんな私にはお構い無しに、
窓の外を見つめたままのウィル様は、こう続けた。
「イライザも…
元気に、しているかな…」
「…」
立て続けに、
ウィル様の口から出る、女性の名前に、
何と答えたら良いのか分からず、
言葉を発する事の出来ない私に、
ゆっくりと、笑顔で振り返ったウィル様は―
「クロード…
故郷が恋しくなったら…
いつでも休暇を取って良いんだぞ…」
と、私に告げる…。
―微笑(わら)ってるけど、
笑顔、怖…っ!
と、思わず、
心の中で叫んでしまった私は、
とっさに、先程よりも、深く頭を下げ、
「…いいえ、その様な事は…
滅相もございません…!」
私は、ウィル様にお仕えする為に、こちらにおります故…
と言い掛けたその言葉を、
最後まで聞いてか、聞かずとしてか、
ウィル様は、また、
ふっと窓の外に視線を送り、
「そう…分かった…
ルイーザとイライザに、
会いたくなったら、
いつでも言ってくれて、構わないからな…」
と、背中越しでは有りますが、
多分、無表情で、
そう私に言い、
机の上の書類に手をかける。
…ちなみに、イライザと言うのは、
5年前に結婚をした、私の、姉で…
ルイーザは、その、姉のイライザの、
3歳になる娘であって、
私の、姪っ子に当たる人物でございます…
それっきり、何も喋らなくなったウィル様の背中を察し、
「では、私は、これにて失礼致します…」
と、深く下げていた頭を、
更に深々と下げて、一礼し、
部屋の扉を静かに、パタンと閉めて、
私は、廊下へと出た―。
…もう、これ以上、
りる様には、何も、言わないでおこう…
ウィル様に、
10倍にも、20倍にもされて、
返されてしまう…!
―先程の、ウィル王子の、
満面の、天使の様な微笑みながら、
何処か、悪魔の様にも見えた、
恐ろしい笑顔を思い浮かべたクロードは、
ぶるっと身震いをしながら、
足早に、廊下を歩いていくのだった―