StoryU

□Stradivarius
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奏でて、音色

響いて、旋律

…一体誰が為…?

―Stradivarius―

パチパチパチと耳へと優しく響く拍手の音にと僕はそっと瞳を開くのです

「うん、良かったよルイス、また1段と綺麗な音色を聴かせてくれたね」

スミレ色の薄く柔らかく澄んだ瞳を優しく細めて微笑んで下さる、

幼い頃から尊敬して止まない、幾ら感謝をしてもし足り無い程の恩人で在り、

これから先の一生もずっとお仕えすると心に誓ったエドワード様の言葉に僕は

「エドワード様、勿体無いお言葉を…」

“感謝致します”

その心からの想いも伝わる様にと、

つい先程まで弾いていたエドワード様から頂いたヴァイオリンを手にした儘、僕は深々と頭を下げるのです

「ははっ、相変わらずルイスは堅いなぁ」

何て事を言いながら丸で幼い子供の様にと無邪気に微笑む、何時でも穏やかな主の為にと、

何か今までのこの御恩の恩返しをしたい

エドワード様から頂いた、この大切な大切なヴァイオリンの奏でる音色で、

もしもほんの少しでも喜んで貰えるとしたのならば、

唯その事だけを僕は心に抱いていたはずだったのだけれど…

「…これは、ロンと院長先生の言った通りの事だね」

普段は決して見せる事の無い、

優しく穏やかな表情ながらもドコかイタズラっ子の様に愉しそうなその声色に、

僕はキョトンと瞳を見開き、小首を傾げるのです

…庭師のロンに、院長先生?確かに先日、いつも通っているあの孤児院での演奏会はしたのだけれど…

その瞬間の事を想い出そうとしていると、エドワード様はふっと紫色の瞳を優しく揺らして、

「そのヴァイオリンの音色を1番に聴かせたい人が、ルイスには出来たのだろう…?」

耳へと響いたその言葉に、僕はハッとしついついその頬は真っ赤にと染まり…

「ははっ、ルイスが嘘を付けないのは相変わらずだなぁ」

楽しそうにとニコニコと笑顔を見せるエドワード様に対して、僕は…

「エ、エドワード様、一体何を…!」

照れ隠しなのか、僕らしくもない、少しムキになった様にと言葉を発すると

「僕はね、ルイス…嬉しいんだよ」

普段から何時も穏やかで、優しいエドワード様の表情に、更に柔らかな光が混じる

「この世界中で、誰かたった1人の人に聴いて欲しい、

 その人の為にと奏でる音色はきっと優しくて暖かい旋律だからね」

エドワード様の優しくそして穏やかな声色は、僕の心の深い場所へとそっと染み込んで来る

…そう、今までは、このヴァイオリンで奏でる音色は、聴かせたい旋律は、

 生涯お仕えすると誓った主のエドワード様の為にとずっと想って信じて疑わなかった、だけど…

控えめで、優しくそして暖かく、何処かエドワード様にと似た雰囲気を持つ、穏やかな、

世界でたった1人の大切な女性にと、僕は出逢う事が出来たんだ…

この世界中で名器と謳われるあのヴァイオリンの音色では決して届かない、

唯ひたすらに、想いを込めてもそれでも、きっと心には響かない

僕はこの、エドワード様から貰った何よりも大切なヴァイオリンを胸に抱いて、

たった1人にと想いを馳せて、奏でる優しい音色はきっと…

響け、旋律

届け、音色

…その全ては、君が為…

**Love Music**

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