Don't think, feel !
□19話
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鈴ちゃんって、偉いよね。
昔からよく言われていた台詞だ。
小さいころから忙しい両親に迷惑をかけないよう、ワガママをなるべく言わず家の手伝いをしてきた私は至るところでこの言葉を投げ掛けられた。
ときには近所の人、ときには友人、ときには担任の先生に。
それを言われる度に「そんなことない」と乾いた笑いと共に返していた。
事実そうせざるを得ない状況にいたからであって、私は別に偉くない。
みんなも本当に私のことを考えてそんなことを言っているのかというと、それも多分違う。
「今日天気いいね」
これくらいの軽さで言っているのだ。
だからいちいち否定するのも、そろそろ私は面倒になっていた。
のだが。
「今の私は確実に偉い…ッ!」
「なんだ、鈴か 」
「なんだって言う前にこの刀どけんかいっ!」
そう私が叫ぶと石田さんは私の顔スレスレのところに突き出した刀をチャキッと鞘に戻した。
はぁ…怖かった…普通に死を覚悟したよ。こんなに私が焦っているのに石田さんはそ知らぬ顔。謝れや!
あ、何故私が石田さんに刀を向けられていたのかというと、朝になってもなかなか部屋から出てこない石田さんを起こしに行こうと石田さんに与えている部屋を訪れた。
すると布団で寝ていたはずの石田さんは私の気配を察してか素早く起き、枕元に(勝手に)置いていたmy刀を手に取り私目掛けて抜刀した…というわけだ。
目がギラつき、武将の顔になっている石田さんはマジで怖い。これだけはいつになっても慣れない。
「もういいや石田さんは…大谷さん起こしに行こう」
「貴様まさか刑部を襲いに…! 」
「行くか!」
なんなの?石田さんの頭の中はお花が咲いてるの?
あり得ない思考回路の石田さんは放っておき、気を取り直して大谷さんの部屋へと足を運ぶ。大谷さんは朝が苦手らしくあまりすっきりと起きれないようだ。低血圧なのかな?最初起こしにいったときはそこまで世話を焼かなくていいと言われたけど、私としてはそれくらいどうってことない。
部屋に着き扉を開ける。
「大谷さーん、朝でs…ギャアアアッ!」
「む…鈴か 」
「揃いも揃ってなんなんですか!」
扉を開けたとたん寝ていた大谷さんは石田さんよろしくそこらへんにあった本を投げつけてきた。もういやだ。
「この似た者同士が…」
「何用か鈴…夜這いか?」
よ…ばい?なんだそれ?大谷さんは何が面白いのか自分で言ってニヤニヤと笑っている。
「あーよく分かんないけどもうそのよばい?とやらでいいんで起きてくださーい」
「貴様やはり刑部を襲う気だったなぁぁぁ!惨滅だあああ!」
「うおおお!?石田さんいつのまに!?」
いつの間にか石田さんが隣で私を睨んで立っていた。
こわっ石田さんこわっ!
「大谷さんも笑ってないで助けてくださいよぉっ!」
「ならわれのところへ来やるか?」
「失礼しますっ」
布団を少しめくって言う大谷さんの誘いに遠慮なく甘える。だって大谷さんが近くにいると石田さん暴れないんだよね!大谷さん様々だよ。
大谷さんの布団に入りつつ背中に隠れる。大谷さんの肩を触ると、大谷さんは少しビクッて体を強張らせたけど、次の瞬間にはこちらを向いていつものように笑った。
「朝から凶王様と鬼ごっことは、 よほど鈴は死にたいと見える 」
「ちっがぁう!」
「刑部から即刻離れろ鈴! 」
「嫌ですよ石田さん怖いし!」
「なんだい君たち楽しそうなことをしているね!」
「これはこれは賢人殿」
「うわーっさらにめんどくさい人来ちゃったー!」
僕も仲間にいれておくれよ!なんて笑顔で言う竹中さんはあんたほんとに寝起きかよって言いたくなるくらいに爽やかだ。
石田さんと竹中さんも布団に飛び付いてきて、朝からとてもうるさい。ただ起こしに来ただけなのにこの人たちと一緒にいるとなんでも騒ぎになってしまう。
あぁ早くご飯食べたいよ…。
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