Working girl

□not森ガールyesワーキングガール
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図書室で使う栞を作っているとき、きり丸が栞を町で売りたいと言ってきたのできり丸のお手伝いとして図書委員で売る分の栞を作ることになった。売るとなると普通の栞より綺麗に仕上げないといけないから僕は花を栞に貼るため学園に咲く花を摘みにきている。

別に僕は栞を作る担当で良かったんだけどね。きり丸と久作が作ってくれるっていうから…。こっちの仕事のほうが楽なのになんだか悪い気がするなぁ。

一応学園内には花が咲いてるからどれにしようかと思いながら歩いていく。うーん、どれも綺麗で迷うなぁ………………………うん。もうみんな綺麗だからなんでもいいや。どーれーにーしーよーうーかーな…

「らーいぞっ」

「うわぁっ三郎!」

突然後ろから肩を叩かれ名前を呼ばれた。呼んだのは同じ五年ろ組の鉢屋三郎。三郎はいつものように僕の顔に変装し、笑顔を張り付けている。

「おっと、悪いな。びっくりさせたか?」

「いや大丈夫だよ。何か用?」

「特に用はないが、しゃがんで花を見つめながら黄昏てる友人を見たもので気になってな」

「あー…」

確かにちょっと可笑しかったかもしれない。自分の様子を想像したら少し恥ずかしい。

「実はかくかくしかじかで…」

「なるほど。きり丸の考えそうなことだな」

三郎が隣にしゃがんで目の前の花を弄り始めたとき、遠くで三郎の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「勘右衛門の声だ」

「あ、そういえばこれから学級委員長委員会の会議だった…」

「もう、何してんだよ。早く行っておいで」

「あぁ。じゃあな雷蔵」

少し焦ったように声の元へと三郎は走っていった。向こうで勘右衛門に注意されている。何でろ組の学級委員長は三郎なんだろう…我ながらよく理解できない。優秀で頼りになるってのは本当なんだけどね。

三郎がいなくなって、花を切るための鋏を懐から出した。サクサク色んな花を切っていく。これで栞がたくさん売れて少しでもきり丸が助かるといいんだけど。


花を切っている途中に何故かふと、この前廊下でぶつかった子のことを思い出した。あの時はすぐに居なくなっちゃったから、もうずっと忘れていたけど…何で今思い出したのかなぁ。

不思議に思っていると不意に近くで水が流れる音がして、ほぼ条件反射で音が鳴るほうへ素早く顔を向けた。

そこには一人の女の子が。ていうか例のあの子がぞうさんジョウロで花に水をやっていた。…何故ぞうさん?ていうかいつの間にここに居たのか、若干怖い。女の子はこの前と同様に白いエプロンを着て真顔で花に水をやっている。こっちに気づいてないのかな?いや、そんなことないよね。こんなに近くにいるのに気づいてないわけないよね。気づいてる上で僕の存在を無視しているんだと思う。ちょっと怖いけど勇気を出して声をかけてみようかな。えっと新しい掃除のお姉さんの名前は…えーっと…んーと…………あ、思い出した。


「音無っ…さんっ」


あっぶない!呼び捨てにするところだった。声をかけたら音無さんはゆっくりとこちらを見た。そして僕のことを見るとハッとしてぞうさんジョウロを勢いよく地面へと置いた。…いや、置いたというより叩きつけたという表現のほうがいいかもしれない。置いた瞬間地面からズバコォッ!って音がしたからね。ぞうさんジョウロがパキッ!っていったからね。

「ジョウロ…」

「あなたはこの前廊下でぶつかってしまった方ですよね」

「はい…いやそんなことよりジョウロ…」

「その節は大変申し訳ありませんでした」

音無さんはとても深くお辞儀をして謝罪してきたけど、それより僕はぞうさんジョウロが心配だった。壊れてないかな?水漏れないかな?僕が黙っていると音無さんは顔をあげてほんの少し、本当にわずかだけ不安な表情をしていた。それにしてもあの日から数日経つのに謝るなんて律儀だなぁ。僕は全然気にしてないのに。

「あの、大丈夫ですよ。あの時は一年は組に追いかけられてたんですよね」

「はい。何故追いかけられたかは未だ不明ですが」

「は組に追いかけられたら逃げちゃうのも分かるなぁ。だからもう気にしないでください。水やりの仕事ですか?」

話を変えて壊れかけのジョウロを指差すと音無さんは再びジョウロを持って水やりを始めた。

「はい。えっと…」

「あ、僕は五年ろ組の不破雷蔵です」

「不破雷蔵くん。知っているかもしれませんが私は音無鈴と申します。不破くんは、俗に言うオトメンという方でしょうか」

「え、……え!?」

「花を摘んでらっしゃいますので」

「違います!これはかくかくしかじかで!」

音無さんの発言に全力で否定する。至極真面目に言うものだから、冗談には聞こえない。きり丸のバイトの手伝いだということを説明すると音無さんはいくらか顔を明るくさせキラキラした眼差しで僕を見てきた。ど、どうしたんだろう…。

「素晴らしいです…まだ学生だというのに仕事をして生活費を稼ぐなど…そしてそれを手伝うということも」

「は、はぁ…」

「私も見習いたいです」

「音無さんって仕事が好きなんですね」

「はい。私の生き甲斐です」

生き甲斐って言えるくらい仕事が好きって凄いなぁ。僕らも忍術学園を卒業してプロの忍者になるときに、音無さんみたいに自信もってそう言えるといいんだけど。当の音無さんは引き続き花の水やりを真面目にやっている。僕もちゃんと花を摘もうと再び作業に取りかかる…と、隣から視線を感じた。

「あの…音無さん?」

「不破くん」

「はいぃっ」

音無さんはジョウロを持ったままジリジリと近づいてきて、そして僕と同じようにしゃがみこみ、僕が切った花の束を掴んで僕に見せた。

「これはなんですか?」

「花…ですけど」

「そうじゃありません。この切り方は一体なんなんですか?こんなざっくばらんに切っては駄目でしょう常識的に考えて!」

「ごめんなさい!」

ずいっと花を僕の目の前に持ってきて凄い剣幕で言ってくる音無さん。確かに僕は長さとか何も考えずに切っていた。切ってれば何でもいいかな?と思ったんだよね…。音無さんに言われて気づいて良かった。

「仕事をなめては痛い目に合いますよ。鋏を貸してください」

「えっ何するんですか?」

「余計なこととは思いますが、私が切らせていただきます」

そう言うと音無さんは鋏をシャキンッと構えて凄い速さで、それでいて丁寧に花を切っていった。す、凄い…!あっという間に大量の花が切れた。


「できました」

「凄い!音無さんは何でそんなに切るのがお上手なんですか!?」

「前に花屋で働いていたことがありまして」

「うわぁ〜ありがとうございます!」

「いえ。お力になれたようでなによりです」

たくさんの花を抱えて立ち上がる。これだけあれば十分だろう。音無さんもジョウロを持って立つ。

「では私はこれで失礼します」

「まだ仕事があるんですか?」

「はい。これから厠掃除なので」

「大変ですね…。お花ありがとうございました」

「いいえ。では」

そう言って僕らは別れた。あ、お礼にこの切った花一輪あげようかな…。綺麗だし。あぁでも迷惑かなぁ。それに十四とはいえ男が女に花をあげるってどうなんだろ?まだ全然親しくもないのに…………うーん…………まぁお礼だったら大丈夫か!よしっ


「音無さんっ…って、あれ?」


振り向けば誰もいなかった。えぇー…まだ別れてから数十秒しか経ってないのに!まぁ音無さんのことだからきっと凄い速さで仕事に向かったんだろうな…って、僕は音無さんの何を知ってるんだよ。

仕方ないから諦めて僕は図書室へと帰っていった。




***


「うわー!先輩いっぱいとってきたんですね!ありがとうございます!」

図書室に戻るときり丸が僕の持ってきた花を見て目を輝かせた。

「これね、音無さんが切るのを手伝ってくれたんだよ」

「えっあの掃除のお姉さんっすか!?」

音無さんの名前を出すときり丸は驚いた。そんなに驚くことかなぁ?

「音無さんに何かあるの?そういえば前廊下で追いかけてたね」

「いや、何にもないんすけど…あの人と以前会ったことがあるのをついこの間思い出したんで」

「へぇ。どこで会ってたの?」

「町の茶屋で。その時、音無さんすごかったんすよ!」

それからきり丸から音無さんが店を守ったことのあらましを聞いた。さすが音無さんだなぁ…って、だから僕は音無さんのこと何も知らないのに何言ってんだ。

「あの音無さんを見たとき、ちょっと忍者みたいだなって思いましたけど、本当に忍者見たいっすよね。不破先輩はどう思います?」

「えぇ、僕?」

音無さんが忍者…あり得ない。あの体つきは明らかに一般人。だけど表情とかは結構忍者っぽいかもなぁ。いやでも普通に考えてあり得ないし…うぅーん…

「しまった。不破先輩が悩んじゃった…。久作先ぱーい!どうしましょう?」

「こうなった不破先輩はどうしょうもないからな…放っておくのが無難だろう」

「ひでぇーっすね。でも賛成っす!」

「元はと言えばお前がやっかいなことをよりによって不破先輩に聞くから!」

「すんませーん。ちなみに久作先輩はどう思います?音無さん、忍者だと思いますか?」

「そんなのあり得ないな」

「ですよねー」

その後僕はいろいろ迷って結局寝てしまい、会議が終わった三郎に起こしてもらったときにはもう夕暮れになっていた。




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