Working girl

□神ってる奴はだいたい友達
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目を覚ますと見覚えのある部屋に居た。心なしか軽い体を起こす。

現状がよく分からなく記憶を辿る。確か自分は塀から落ちて…

「また気絶して、あれから丸々二日寝ていたんだよ」

不意に聞こえた声に反応する。先ほどまで部屋には自分しかいなかったはず。いつの間に来たのだろうか。横には善法寺伊作がいた。

「それは、大変ご迷惑をおかけしました」

「いや、最初から二日は休まなければいけなかったからこちらとしては良かったんだけどね」

そうじゃないと君、また逃げ出しそうだったから。そう言われて鈴は何も言えなかった。まったくその通りだ。

「では、二日も寝たので、もう…」

「大丈夫だよ」

伊作の言葉に鈴は飛び上がってすぐにでもここを出たい衝動にかられた。でもそれは出来なかった。伊作の神妙な表情が気になったからである。何か不安なことがあるのだろうか。

「何か仰りたいことでも?」

単刀直入に聞くと伊作は少し言いにくそうに、だが真剣な眼差しで鈴を見て口を開いた。そんな伊作に鈴も多少は身構えた。

「えっと…僕は、貴方の就活に反対なんだ」

「善法寺さんちょっと手荒に掴んでもよろしいですか?(ガシッ」

「ももももう首掴んでるよ!?」

まさかそんなことを言われるとは思わなく鈴はつい手が出てしまった。だって、ここまで身を粉にして職探しのために来たのに、それを反対されるとは。ましてや鈴は仕事をするのに病的に執着しているのだ。正気に戻り自分の手を伊作の首から離す。伊作は咳払いをして鈴を見る。やっぱりこの人怖いかもしれない。

「すみません。反省はしていませんが後悔もしていません」

「果てしなく何もしてないじゃないか…!君、もしかして忍者なのかい?」

「違います」

キッパリと答える鈴だが伊作は自分でも馬鹿だとは分かるがちょっと疑わしく思えた。表情を読み取らせないし、忍たまの自分から逃げ出すし、鉤縄は使えるし、鈴が一般人だと分かりきっていても、この子は忍者の素質が十二分にあると思う。

「善法寺さん、トリップしているところ悪いですが何故反対なのか教えてくれませんか」

「あっ!うん…君が無事に山を越えて町に行けるとは、僕は到底思えないんだ。君も薄々分かっているんじゃないかい?」

「…」

「沈黙は、肯定と受け取っていいのかな」

優しく笑う伊作を鈴は見つめる。布団をギュッと握りしめた。

分かっていた。

分かっていたけど、でも選択肢なんかないじゃないか。元居た町での鈴の印象は決して良いものではない。家もない、愛想もない、こんな自分を雇ってくれるところなんて、自分を知らないまだ見ぬ町だけだと思ったから。こうしてボロボロの状態まで頑張った。

「善法寺さんのお心遣いとても嬉しいです。ですが、貴方に反対されたところで私は意志を変えるつもりはありません。…貴方が私に職を提供してくださるのであれば話は別ですが」

「その言葉を待ってたよ!!」




は?




どうせ無理だろうと思って言ったのに、伊作は言葉通り待ってましたとばかりにキラキラと目を輝かせ鈴を見た。鈴は意味がまったく分からず、頭のなかはハテナマークでいっぱいだった。

「あの、それはどういう…」

「音無さんにやってほしい仕事が、この学園にあるんだ!」

「え…」

「実はもう学園長にも話しているんだ。これから面接に行こう?」

そう言うと伊作は鈴の手を掴みゆっくり立たせた。病み上がりなのを配慮しているのだろう。いや、今はそんなことより、職を提供しろと言ったら本当に提供してきた人を鈴は初めて見た。この人が神か…。

「良いんですか。こんな、部外者の私が」

「?音無さんは可笑しなこと言うんだね。みんな最初は部外者だよ」

部屋を出て「こっちだよ」と道案内をする伊作についていきながらそんな会話をした。有難いなんて話じゃない。鈴は伊作から後光がさして見えた。

盛者必衰の言葉が再び鈴の脳内にこんにちはしたが一先ずぶん殴ってゴミ箱に捨てておいた。




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