Working girl

□野宿しますよ
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一日で山を越えられたら良いと密かに願っていたけれど、やはりそれは無理そうだ。足はすでに限界で少し震えている。

時刻は夜中といったところか。こんな暗いなか歩くのは危険だ。今夜は野宿だろう。野宿が初めての体験ではない鈴は早々に森へと入っていった。

森のなかには綺麗に澄んだ小さい川が流れていた。丁度いい。すぐさま渇いた喉を潤し、川から少し離れたところで鈴は休むことにした。

震える足を擦って、寒さを凌ぐ。何故自分がこんなめに合わなければいけないのか。そう考え始めて、鈴はハッとしたように頭をブンブンと降った。黙っていると嫌でも負の考えが頭のなかを支配してしまう。それではいけない。

山を越えるまで、何も考えずにひたすら歩くことにしよう。鈴はそう目標を立てて、地べたへと寝そべり、身を縮こませた。





ふわり。

眠りにつこうとしたとき、空気が変わったのを感じた。体をおこし辺りを見渡す。


あぁ、自分はなんて運が悪いのか。目の前には山賊と思わしき男が三人。鈴をニヤつきながら見ていた。

「おい嬢ちゃん、金目のもの、着物、全部こっちによこし…」

「頭、もう女、居ませんけど」

「ええっ!?逃げ足速ァッ」

鈴はすでに山賊を見つけた時点で遠く彼方へと逃げていた。自分が運動神経があるとは思えないが、これが火事場の馬鹿力というやつか。驚くべき速さで森をすいすいと走っていく。

だが山賊も格好の獲物をそう易々と逃がすわけもなく、三人供に鈴を追いかけた。






森のなかを走っていると、いつしか山賊の姿は見えなく、声も聞こえなくなっていた。うまくまいたのだろうか。汗を拭って一息つく。全く、散々だ。先程潤した喉はもうカラカラに渇いていた。着物や足には少々土がついている。

落ち着いている暇はない。さっさとこの森を抜けなければ。野宿も諦めた。今夜は徹夜で歩こう。

「あっ!」

一歩踏み出したとき、何かに足をとられて、鈴は転んでしまった。

襲いかかる鈍い痛みに顔を歪ませながら足の方を見る。片足が縄できつく繋がれていた。猪(イノシシ)でも捕らえる罠に掛かってしまったのだ。

最悪だ。大きな焦りに苛まれ、早く罠を解こうとするが固く絡まって解けない。何か刃物はないだろうか。早くしないと、早くしないと山賊が来て身ぐるみ剥がされてしまう。

めったなことで表情を変えない鈴だが、このときばかりはひどい疲れと焦りと恐怖で顔が青白くなっていた。冷や汗が体をつたう。

目を凝らして縄をちぎる物を探した鈴は、草むらに光るものを見つけた。両手で草を掻き分けてそれを見る。


草むらに隠れていたのは、一本の苦無だった。




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