Don't think, feel !

□19話
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「夏祭り?」


「はい。好きですか?お祭り」



割れた皿は片付けて、居間で大谷さんが畳んでいた洗濯物を整理していく。竹中さんは台所から顔を覗かせ、もう何もしなくていいと言われた石田さんは床に座って手持ちぶたそうに大谷さんの洗濯物を畳む動作をただ見続けている。


「今日は花火もあがったりと結構楽しい夏祭りがあるんですけど…皆さんが行きたいなら一緒に行こうかなぁ…なんて思いまして」


本当に誘ってくれた綾には悪いがうちには犬二匹に加えて猫一匹がいるので、私だけが遊びに行くなんてことは出来ないのだ。でももし私が行きたいと言ってもきっと三人は優しいから行ってきていいと言ってくれるのだろうな。

私が手を動かしながら行きたいか三人に問うと、大谷さんが手を止めて、懐かしそうに視線をこちらへ向けた。

「夏祭りか…懐かしいよな…。昔はよう三成と行ったものよ」

「へー戦国時代にもお祭りってあるんですね」

「われがまだ病に伏せる前の話だがな…今のわれには祭りなど縁のない話よ」

大谷さんは軽く笑って再び服を畳始めた。私が教えた通りにきちんと畳めている。石田さんが何かあちらでの世界のことを思い出したのかギリギリと歯ぎしりし始めたけど、石田さんの突然の癇癪は今に始まったことじゃないので無視を決め込んだ。

「そっか…じゃあお祭りに行くのはやめましょうか。ちなみに、皆さんは人混みとか平気ですか?」

「嫌いだ」

「苦手かな」

「人は好かぬ」

「ははっ歪みねぇ」


予想通りの反応を見せた武将たちは放っておいて、私は家事を手伝ってくれたお礼にお茶でもいれようかと台所へ行く。台所では先ほどから竹中さんが食器を片付けていてくれていた。

お茶と簡単なお菓子を用意しながら、少し考えた。別に考えるつもりはなかったけど、無意識に考えてしまった。



実は夏祭り、少し行きたい気持ちもあった。誰でもない竹中さんと石田さんと大谷さんと私の四人で。昔、お母さんとお父さんと行ったみたいに。



けれど思えばあの三人引き連れて人がいっぱいな所に行くなんて無理に決まっている。我慢しよう鈴。昔から得意なんだ。我慢することは。今こそ、みんなが望む本当の「偉い鈴ちゃん」になるときなんだ。


「鈴くん、お茶が溢れているよ」

「えっ、あぁ!」

竹中さんに言われて自分の手元を見ると、コップから麦茶が溢れていた。急いで注ぐのを止めてなみなみお茶が盛られたコップを持つ。考え事をしてるとろくなことないなー。


「鈴くん、君が考えていることを当ててあげようかい」

「は?」

突然横に居た竹中さんは体を屈(カガ)めて私と目線を合わせながら、笑うことなく言った。

私の考えていること…?
いきなり何言ってんだこの人。とうとう頭が可笑しくなっちゃったのかな。

真剣な目で私をじっと見てくる竹中さんに、少し物怖じする。美人の真顔は怖い。じっと見たあとに、クスリと笑って私の顔を長い人差し指で差した。

「本当は行きたかったんだろう?」

「えっ」


お祭りに。竹中さんの言葉に顔に熱が集まるのが分かった。な、何者だ竹中さんは!?

「何で、どうして分かったんですか!?」

「人の顔色を見てその人の心情くらい見抜けないと、秀吉の右腕は勤まらないからねぇ。あまり賢人様をなめないほうがいいよ」

「うっ…なめてました…」


凄いよ竹中さん。凄いよ戦国武将。正直かなりなめていたよ。改めて住む世界が違うんだと実感した。

「すまないね。僕らが居なかったら、行けたのだろうね」

「えっ…」

竹中さんのそんな顔、初めて見た。本当に申し訳なさそうな顔。やめてくれ。そんな顔させるつもりじゃなかった。

「確かにそうですけど、私は竹中さんたちと一緒に居るのがいいんです。そこんところ、勘違いしないでくださいね」


それに、お祭りに行かなくたって花火は見れるのだから。


そう言ってもう一つのコップにお茶をいれ始める。竹中さんは体を伸ばして私の頭を撫でた。


…撫でられるの、慣れてないからやめてほしい。


「鈴くんは素直な子だね」


素直な子…。




「あ、ありがとうございます…」



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